ネットメディアの台頭・隆盛により、新聞・雑誌といった“紙”メディアが衰退していることは広く知られている。だが、実際にどの程度衰退しているのかは定かではない。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が衰退に拍車を掛けている。客観的な実情を知るため、政府統計により紙媒体の衰退状況を探ってみた。
新聞や雑誌の発行部数でその指標となるのは、日本ABC協会による「ABC部数」だ。同協会によるとABC部数は、「新聞社は2年に1度、雑誌・専門紙誌・フリーペーパーは1年に1度、協会の公査員が発行社を訪ね、公査(監査)によって正しい部数であることを確認」している。公査は、売上(販売店・取次会社)・費用(製作・配布)から、報告された部数を確認する帳簿調査だ。
しかし、新聞は2年に1度、雑誌は年に1度の調査であり、直近の状況はわからない。新聞・雑誌にとって発行部数は重要だ。発行部数によって媒体価値が測られ、広告宣伝価値(広告代金)につながる。だが、発行部数=実売部数ではない。新聞では発行部数を増やすために“押し紙”といわれる“無駄な印刷”が行われていることも明らかになっている。
政府統計の推移を見ることで、一紙、一誌の衰退はわからないものの、新聞や雑誌の産業としての全体状況を探ることにより、その衰退状況を見ることができる。
まず、経済産業省が発表している「鉱工業指数」で別表:1の「紙の生産指数の推移(2015年が指数100)」を見ると、2013年、14年は100を上回る指数となっていたが、その後は減少傾向が続いている。特に、18年から減少度合いが強まり、19年には15年比で10ポイント近い下落となっている。そして、新型コロナ禍の影響が現れる20年上半期は指数69と30ポイント以上も下落している。
紙にはさまざまな用途があり、紙の生産すべてが新聞や雑誌に使われるわけではない。そこで、鉱工業指数の紙生産の内訳から「新聞巻取紙」「印刷用紙(非塗工類)」「印刷用紙(塗工)」の指数推移を見たのが、別表:2の「紙製品の生産指数の推移(2015年が指数100)」だ。
「新聞巻取紙」の低下は激しい。特に2018、19年は前年比6ポイントも低下し、19年は15年の100と比較すると19ポイントも低下している。そして、20年上半期は指数63と15年比で35ポイント以上の下落となっている。
「印刷用紙(塗工)」は雑誌の表紙、パンフレット、カレンダーなどに、「印刷用紙(非塗工類)」は雑誌、書籍の本文などに使われる。印刷用紙(非塗工類)は大きな指数の低下が見られないものの、新型コロナ禍の影響なのか、今年に入って上半期は指数66と2015年比で35ポイントへ急落している。
より大幅な下落を見せているのが印刷用紙(塗工)で、2015年比で18年には約10ポイント、19年には15ポイント以上の下落に、20年前半は急落し、50ポイント以上の下げとなっている。
紙生産の内訳にはプリンタ用紙などOA機器に使われる「情報用紙」、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどに使われる「衛生用紙」もあるが、これらの指数は上昇しており、「新聞巻取紙」「印刷用紙」の指数低下は新聞・雑誌の衰退を暗示している。
出版社の売上、前年同期比で3割減
「鉱工業指数」では「印刷用紙」は雑誌への使用だけではないため、新聞・雑誌の実態をより明確にするため、経済産業省が発表している「第3次産業活動指数」で「新聞業」と「出版業(内訳で週刊誌、月刊誌、書籍)」の別表:3「生産活動指数の推移」を見てみる。
新聞業、出版業(週刊誌、月刊誌、書籍)のすべてで指数の下落が続いており、新聞業と出版業の書籍が緩やかな減少にとどまっているのに対して、2018年以降の週刊誌、月刊誌が急激な減少となっている。そして、新型コロナ禍の20年上半期は出版業、特に週刊誌に大きな影響を与えていることがわかる。
出版協が行った「新型コロナウイルス感染症による影響についてのアンケート調査」(23社が回答)によると、売上は前年同期比で3月76.3%、4月72.7%、5月67.7%と平均72.2%と約3割の減少となっている。
このようにネットメディアの台頭・隆盛に加え、新型コロナウイルスの感染拡大は新聞・雑誌といった紙メディアの衰退に拍車を掛けている。果たして、“紙文化”は生き残っていくことができるのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)