――文大統領は、「任期内に公共部門の非正規雇用をゼロにする」と公言しています。
林 それも財政的な問題がハードルになり、実行すれば場合によっては財政破綻をきたす可能性もあります。韓国の問題のひとつに、労働組合が優遇されていることがあります。もともと労組への出費が多く、結果的に労組を強化することにもなりかねないため、これも現実的でないと考えます。
今回の大統領選挙では、保守派が一本化していれば勝利していた可能性もありました。文大統領の得票率は約4割にすぎません。強力な推進力を持てるかどうかは疑問です。
――豊かな中間層の形成も、ひとつのテーマになりますが。
林 韓国社会の最大の弱点は、中間層、つまり中和的な緩衝層が少ないことから社会が不安定化し、右にせよ左にせよ一気に振れることです。今、財閥を中心として突出した富裕層に対する不満が高まっています。
中間層を形成するためには、前述したように中小企業の長期的な育成が必須です。ギリギリのところでやらざるを得ませんが、大ナタを振るって財閥による独占企業を制限し、中小・零細企業の育成に注力すべきです。
朴槿恵前大統領は、豊かな中間層の形成をうたいつつも実現できなかったことが失脚した一因です。もし中小企業の育成を実現できれば、文大統領の評価は定着するでしょう。
韓国の若者は大企業か公務員しか目指していない
――「中小企業の育成=豊かな中間層の形成」という構図は理解できましたが、政策以外で何かハードルはありますか。
林 韓国の国民性も関係しています。たとえば、日本人は地道な作業を積み重ねることができ、伝統的な職人気質が根付いています。おそらく、江戸時代からあったのでしょう。日本人は、人生をかけて技術や知識を研鑽します。商業にしても何百年という老舗がありますが、韓国人は一攫千金を狙う意識が強いです。
そして、もうひとつは昔から特権階級の両班(ヤンバン)意識【※1】が強いこと。韓国の中小企業育成は、この両班意識が変わらないと難しいでしょう。一方、韓国の若者は大企業に勤めるか公務員になることしか考えていません。政策として中小企業を育成しても、「起業しよう」「中小企業に従事して担い手として汗をかこう」という若者が現れない限り、厳しい気がします。