捜査当局が犯罪をでっち上げ、冤罪発生の危険も
──テロ等準備罪が施行されたり国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結したりすると、本当に東京オリンピックのテロ対策になるのですか?
官 現在の国際テロはイスラム過激主義者による自爆テロが主流ですが、それらがどのように実行されているかを考えてみましょう。
日本を舞台に考えれば、IS(イスラム国)の戦闘員が日本に潜入し、海外の資金で自爆テロを敢行するシナリオも、理論上は考えられます。しかしながら、実際のところ可能性は非常に低いでしょう。
より現実性が高いのは、過激主義者がインターネットなどを利用してターゲットにした日本人を洗脳。その日本人がテロを実行するというシナリオです。これを、専門的には「ホームグロウンテロ」と呼びます。
TOC条約は国際的な犯罪組織の連携を絶ち、国際社会が一致して封じ込めるというのが目的です。ところが、「ホームグロウンテロ」は資金などを海外から支援するわけではないので、対象外となります。
さらに、組織に属さない単独テロ犯を「ローンウルフ」と呼びますが、このタイプはテロ等準備罪の適用対象外となります。
最新のニュースを思い出していただきたいのですが、今のテロリストは乗用車やトラックなどの車両を群衆に突っ込んで死傷させるなど、これまでの常識では考えられない犯行手段を編み出しています。
乗用車など、日常生活で普通に活用されているものを武器として悪用した場合、それを捜査機関が防ぐのは無理と言わざるを得ません。だからこそ、フランスやイギリスでテロが起きてしまったのです。
つまり、単独のテロリストが“犯行の下見”のためにレンタカー店を訪れたとしても、テロ等準備罪で逮捕することは不可能なのです。
──今後、捜査当局が法律を乱用するとして、どのようなケースが考えられますか?
官 前に説明しましたが、テロ組織とする要件に基づき、監視対象の組織・団体を認定する作業を行います。このとき、テロ等準備罪を根拠法令として、GPS追跡などの執拗な尾行、個人をターゲットにした盗撮や盗聴が行われる可能性があります。
これが常態化すると、現場の捜査員は「あそこは警察に批判的な組織だ→反体制組織だ→革命やテロを企てようとしているに違いない」といったロジックで思考し、「ストーリーありき」の情報収拾活動を行い、監視を強化します。そして、ターゲットとした組織の悪質性を立証しようとして、でっち上げなどの冤罪が起きてしまう危険性があると考えます。