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辞書を買うのも自由ではなかった戦前の天皇
戦前の天皇と皇室財産に関して、このような逸話がある。
昭和天皇の侍従次長であった木下道雄が戦後に語ったところによると、あるとき、地方に大水害があったので「御内帑金(ごないどきん)」の中から数百万円を被災者の救恤(きゅうじゅつ)のために下賜するということがあった。
そのための必要書類が(宮内)大臣官房から侍従職を経て送られて来ており、昭和天皇はすぐにそれを裁可する印を押したという。この「内帑金」とは君主の手元金のことだが、そこから支出することすら天皇の自由になっていないことがわかる。
その書類を手に退出しようした木下が、ふと天皇の机の上を見ると、仏和辞典が置いてあった。使い込まれてボロボロになったそれは大層使いにくそうだったため、「新しいものにお替えしましょうか」と聞いたところ、昭和天皇は木下に「金はあるか」と聞き返した。木下は「ございますとも」と答え、翌日20円を支払って新しい辞書を買い求めた。
もちろん、これは証言であるため、ただちに事実とすることはできないが、天皇と「皇室財産」の関係のあり方の一端を垣間見ることのできる逸話といえよう。戦後、GHQはこの「皇室財産」を文字通りの私有財産とみなした。また、一部の人々は「皇室財産」を事実上の財閥と目して、「天皇制」排撃のための論拠としたのである。
なお、木下は「終戦後、皇室財産のほとんど全部が政府の所管に移ったが、陛下としてみれば、国民が金が入用で自分たちの貯金を引き出したとしか思っておいでにならないだろう。もともと御自身のものとは考えておいでにならなかったのだから」と述べている。あるいは、このあたりが偽らざるところではなかったか。
(文=井戸恵午/ライター)
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