2月13日に発生した福島県沖を震源とする最大震度6強の地震は、全国各地に大きな影響を与えた。報道各社は被害の全容を伝えようと発生直後から福島、宮城両県の各地に取材に飛び出し、ニュースを伝えた。
そんななか、共同通信社が各報道機関に配信し、各社サイト上に公開した、とある写真が一部の報道関係者をざわつかせている。地震の影響で「家具が倒れた民家」とされている写真が、共同通信記者の駐在事務所ではないのかという指摘が出ているのだ。
地震で家財が倒れた民家の部屋?
インターネット上で配信されていた写真は以下の通り。写真説明には次のような説明がなされていた。
「地震のため家具が倒れ、家財が散乱した民家の部屋=13日午後11時20分ごろ、福島県郡山市」
福島県の地方紙記者は次のように話す。
「重箱の隅をつつくような話で気が引けますが、この写真、共同通信郡山駐在記者の事務所兼マンションですよ。事務机が共同さんの備品ですし、『共同通信 記者ハンドブック』の裏表紙も見えるので間違いないと思います。『民家の部屋』という書き方では、あたかも地震発生直後に取材に出て、被害が出ている住民の方に取材したように見える。記者の自宅も民家とはいえ、この写真が全国に配信されることに違和感があります。
多くの記者が地震発生とともに、街中のコンビニや役所に足を運び、少しでも地域の正確な被害情報を伝えようとしていました。ざっくばらんだった20~30年前の新聞社であれば、こういう取材手法もありだったのかもしれませんが、SNSが普及し、自宅の被害写真を誰もが全世界に公表できるようになった時代にはそぐわないのではないでしょうか」
速報性が問われる災害時の報道では、記者自身の視点で周辺の被害状況を伝える「雑感記事」が用いられることが多い。政府や自治体が被害の全容を把握できていない場合、とりあえず目に見える範囲での被害を記者の視点で伝えるというものだ。
この際に最も必要なのは記者が「誰」で、「取材場所がどこであるのか」を可能な限り明らかにすることだ。リポートしているのが誰で、どこの被害なのかを明らかにしなければ、いくらでも架空の記事が書けてしまうからだ。別の地方紙記者は次のように話す。
「例えば、産経新聞さんは同様に福島市駐在記者の自宅マンションの写真を掲載し、被害状況を伝えようとしていましたが、記事内で『産経新聞駐在支局の建物』と明記していました。
テレビ局でも地震直後のスタジオの模様を伝えることはありますよね。職住一体の新聞社の通信部や1人支局などでも、似たような写真を撮って掲載することはありますが、その際は必ず〇〇通信部とか〇〇支局とキャプションや記事で説明します。共同通信さんは全国の加盟地方紙に『記者の手引き』や『記者ハンドブック』などを通じて、取材のあり方を啓発されているのですが、これはどうなんでしょうか」
「民家」とは駐在記者の自宅でした
記者の自宅も民家と言えないわけではない。だが虚偽ではないとしても、果たしてこの表記は適正だったのだろうか。共同通信社に問い合わせたところ、以下のような回答を得た。
「確かにこの写真は共同通信の郡山市駐在記者の自宅ですが、写真に映っているのは、作業スペースではなく生活スペースでした。取材体制の話になりますが、郡山駐在は支局や通信部という事務所には該当せず、駐在員として記者を同市内に置いています。また駐在員の住居は一軒家ではなくマンションで、民家と言っていいと考えています。また、写真のキャプションについては文字数の関係もあり、長い説明は書けません。非常に雑駁なキャプションになってしまったことは事実です」
(文・構成=菅谷仁/編集部)