10月に行われた中国共産党第19回全国代表大会では、「習近平」が党の中核であることが示され、党規約には「習思想」がうたわれ、「新時代」が強調された。習近平総書記(国家主席)の政治報告を総括して、「盤石の権力を固めた」「習近平独裁」と報じたメディアが多かった。
しかし、はたしてそうなのだろうか? むしろ、習近平は「空の城」を築き上げたのではないか。そう訝しんだのは、筆者だけではなかった。ハーバード大学教授で歴史家として世界的に著名なニーアル・ファーガソン氏は、「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」(10月30日)への寄稿で、欧州メディアの習近平礼賛に疑問を呈した。
ファーガソン氏の寄稿の内容に触れる前に、その礼賛報道を見てみよう。
イギリスの「エコノミスト」は「習近平は世界一のパワーを手にした。世界の覇権を達成する長期的戦略を掲げ、鉄の拳で、それをなそうとしている。ダボス会議では、中国があたかも自由貿易の旗手のごとく振る舞った」と書いた。
同じくイギリスの「フィナンシャル・タイムズ」も、同様に吠えた。「習近平は類いまれな政治家の才能を発揮し、彼の路線は中国共産党を席巻した」とベタ褒めだ。
これら礼賛風の論評に対して、「18世紀から19世紀にかけて西側の中国認識は『不潔、アヘン、腐敗、文化後退』だった。その認識を、中国人が今の米国に対して抱くようになった」という書き出しで始めたのが、ファーガソン氏である。寄稿は、こう続く。
「西側メディアは、習近平の中国評価に際して3つのことを見落としている。 第一に『習近平思想』というが、それを煎じ詰めると中華民族の復興、偉大なる発展ということでしかない。
第二に『権力基盤を固めた』としたメディアがあるが、最高意思決定機関のメンバーは胡錦濤派が2人、江沢民派が1人、無派閥が1人という構成であり、この派閥均衡人事を見ると、権力基盤を固めたとはいえない。
第三に経済政策はほとんど明示されておらず、あるいは習が目的としていることは『毛沢東2.0』ではないのか?」
軍部の対立を生み出した習近平の“お友達人事”
また、習近平は後継者を明示しなかった上に潜在的ライバルの胡春華をトップセブン(7人の政治局常務委員)に引き上げなかった。また、胡春華は大会直後に広東省党委員会書記を降ろされたばかりか、次の任命がなく“休職”扱いだ。
豪腕ともいえる習近平のやり方に、党内で不満が沈殿したことは明白だ。中国共産主義青年団派(以下、団派)のライジングスターである胡春華は、会議の途中で中座して習近平への不満を示した。
団派の狙いは、次の党大会が開かれる5年後だろう。中国の最高指導部内には、「68歳で定年」という暗黙のルールがある。これにならうと、新指導部のほとんどが5年後に引退することになる。
残る汪洋は60代後半となるが、政治局常務委員の下の政治局委員に選ばれた団派の多くは若く、2期目の継続が可能だ。そのため、団派のなかには「急ぐことはない」という心理が作用しているのではないだろうか。つまり、早くも5年後の党大会に照準を合わせているというわけだ。