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赤木ファイル:カギ握る赤木氏の上司・池田元統括官の証言…改竄指示した職員は栄転

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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赤木ファイル:カギ握る赤木氏の上司・池田元統括官の証言…改竄指示した職員は栄転の画像1
赤木俊夫さん(遺族提供)

 国(財務省)はどこまで“海苔弁当”にせずに出してくるのか――。

 2016年6月、学校法人森友学園に大阪府豊中市の国有地が常識外れの安価で売却。その売買交渉を記録した公文書を改竄させられたことを苦に18年3月に自殺した財務省近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(当時54)が改竄経緯を残したメモ(赤木ファイル)について、存否の回答すら拒んできた財務省は態度を一変させた。5月6日に大阪地裁に出した意見書で「存在する」と回答、次回口頭弁論の6月23日までに同地裁に提出するとした。

「赤木ファイル」には改竄過程を時系列で記録した文面や、財務省本省と近畿財務局のメールのやり取りなどが記録され、同学園の小学校建設のための国有地売却で大幅値引きがなされた経緯について、公文書にあった安倍晋三首相(当時)の妻、昭恵氏(開校予定だった小学校の名誉校長)の名が削られた経緯などが詳細に書かれている。改竄は、国会で安倍首相が「私や妻がかかわっていたということになれば首相も議員もやめる」と啖呵を切った直後だった。

 赤木さんの妻・雅子さん(50)は財務省と佐川宣寿・元理財局長に合計1億1200万円の損害賠償を求めており、ファイルは生前の赤木さんが精神的に苦しんだことを裏付ける証拠になるのだ。

 6日、雅子さんは関西テレビの取材に「夫に改ざんを促した人の名前はちゃんと出してほしい。国には夫の残したものを真摯に出していただいて、夫がなぜ死ななければいけなかったのか、改竄をしなければいけなかったのか、それを明らかにできるように進むだけです」などと話したが、記者会見には現れなかった。

 大阪市内で会見した原告代理人の生越照幸弁護士は「8割がた『ありましたけど捨てました』などと言ってくるかと思っていたので、少し拍子抜けした」と評価するが、「どこかに眠っていたなどということはあり得ない」とみる。

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大阪市内で会見する生越照幸弁護士(右)と松丸正弁護士

財務省の「二枚舌」

 財務省はこれまで、裁判では「裁判の争いに関係がない」、国会では「裁判に影響する」と「二枚舌」でメモの存否の回答を拒否していた。存在を認めた背景には、雅子さんが2月に文書の提出命令を大阪地裁に申し立て、裁判長が3月の協議で「赤木ファイルがあるなら任意の提出を検討してほしい」と指示していたことがある。仮に裁判長の「文書提出命令」になれば強制を伴う。拒否すれば命令になる可能性もある上、裁判所の心証も悪くなるので国側はそれを避けたかった。

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財務省意見書

 雅子さん側は昨年10月に新証拠を提出している。19年3月9日に赤木さんの直属の上司だった池田靖・元統括国有財産管理官が、雅子さんの自宅に弔問に訪れた際に話した赤木ファイルに関する証言を、雅子さんが録音していた音声データだ。雅子さんが膝を乗り出すように「はい、はい」とうなずいている。以下、池田氏の発言。

「パラッとだけ見たんです。『うわ~、メッチャきれいに整理してあるわ』と。全部書いてあるんやと。どこがどうで、何がどういう本省の指示かっていうこと」

「だから、前の文書であるとか、修正後のやつであるとか、何回やりとりしたようなやつがファイリングされていて、それがきちっと、パッと見ただけでわかるように整理されてある。これ見てもうたら、われわれがどういう過程でやったかというのが全部わかる」

 森友学園問題で財務省は、佐川氏が17年2月の衆議院予算委員会で売買契約の交渉記録について、「売買契約の締結をもって事案は終了した。記録は速やかに廃棄した」と平然と答弁したが、その後、大ウソだったことが判明した。仕方なく国会に提出したが、18年3月に朝日新聞が、提出記録が改ざんされていたことを一面トップでスクープした。今回も、内部告発やスクープを恐れて存在だけは認めたのかもしれない。

 赤木ファイルの存在について麻生太郎財務相は「訴訟指揮に委ねる」と国会答弁していた。一歩前進だが、6月23日までに出される文書ではどこまで“黒塗り”せずに出してくるかが焦点だ。

 意見書には、「本件訴訟とは直接の関係が認められない第三者の個人に関する情報も含まれる」「本件文書についてはマスキング処理の必要性が認められる」などと書かれる。根拠として「公務秘密文書(民事訴訟法220条4号)に該当する情報が含まれる」とする。

「特に、森友学園案件は、報道等で引き続き取り上げられる実態があり、決算文書の改ざんなどに関与したと認定されていないものや、同行為に関与した者のうち、幹部職員ではないものの個人に関する情報を公にした場合、取材が殺到することなどにより当該職員はもとより家族の私生活の平穏が脅かされる」などとする。プライバシー保護を前面に出しメディアを意識している様子がうかがえる。

 生越弁護士は「固有名詞がみんな伏せられてしまったりしたら、証人申請もできなくなる」と警戒するが、「本件訴訟と直接関係がない」を振りかざして黒塗りだらけにする恐れがある。

中村・元総務課長はロンドン公使に

 さて、改竄の中核的役割を担っていた財務省本省の中村稔・元総務課長はロンドン公使に栄転。国会で安倍首相を守りぬいた太田充・元理財局長は主計局長から事務次官にまで栄転している。

 池田・元統括官は赤木さんより少し年下だったが、故人が信頼していた。今年3月に雅子さんの家に弔問に訪れた池田氏は、『報道特集』(TBS系)の金平茂紀キャスターに対し「真摯に対応したつもりですが」「私が一番大事に思っていることは、故人の尊厳を守るということです」などと答えていた。

 雅子さんは「池田さんが話してくれたことはすごい大きいことで、私に話してくれたことは真実であるということ、夫の尊厳を守りたいとおっしゃった。すごい言葉だなあと思います」と話している。池田氏が真に良心的な人物なのか、それともメディアの前で赤木夫妻に真摯に寄り添っているように見せるだけの忖度官僚だったのか、注目したい。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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