わざわざ「1プレー目」と限定した内田氏の思惑
「内田さんの常套手段だった『試合に出さない』『チーム内で干す』というやり方は、闘争心を燃やすタイプの選手には効果がありますが、宮川くんのような実直なタイプには逆効果です。マジメなので考え込んでしまい、結果的に軽いうつ状態になることもあるからです。もちろん、それが功を奏すこともありますが、私だったら宮川くんのような選手はほめて伸ばします。
問題となったレイトタックルも、宮川くんは試合に出たいがために1プレー目から無我夢中で行いましたよね。絶対にありませんが、仮に私が『相手にケガをさせる』ことを意図して指示するとしたら、あんなあからさまなレイトタックルなどさせません。相手がどんな作戦でくるのかわからないので、『クオーターバック(QB)がパスした直後に、狙えるタイミングのときにやれ』という言い方をするでしょう。
井上前コーチは内田さんからの伝言として『1プレー目で潰せ』と言ったそうですが、そもそも『1プレー目』と限定すること自体がおかしいのです。おそらく、優しそうな宮川くんのことだから、1プレー目と決めておかなければやらない可能性があると思ったのでしょう。だから、宮川くんはあんなに長い距離を走り、QBがパスを投げて2秒もたってから当たったんです」(同)
「相手のQBにケガをさせろ」という意味の指示に加えて、それを「1プレー目」と限定するやり方は、宮川選手を二重の意味で追い込み、躊躇する余地を奪うやり方であったといえる。
素直な宮川選手は、それを遂行したばかりか、やらなくてもいい3度目の反則(相手選手との小競り合い)にまで及んだ。自分の闘争心を監督とコーチに見せつけることで試合に出してもらおうと考えたのかもしれないが、試合中の選手をそんな思考に走らせてしまうこと自体、内田前監督の指導法が間違っていた証左だろう。
どの選手にも厳しく接するのは戦中戦後の軍隊式指導法であり、アメフトに限らず野球でもサッカーでも一時は用いられていた。精神的にタフな選手が多い時代には合っていたのかもしれないが、現代では軍隊式の一律指導は向かないだろう。
「『個性を尊重せよ』と言われる時代だからこそ、各選手の力量や性格を見極めてコーチングする必要がある」(同)という言葉を聞くと、内田前監督の独裁的指導が墓穴を掘ったのも納得である。
(文=伊藤遥雄/フリーライター)