現代の我々が知るテクノロジーにおいて、それを可能とする方法といえば、限られてくる。我々は、ドリルの刃の回転だけでなく、振動を加えて硬い素材に穴を開ける。だが、それでも繊細な工芸品には向かない。もっと滑らかに、振動の衝撃も少なくする必要がある。そう考えると、市販の振動ドリルよりもはるかに高速で小刻みな振動を与えながら削っていく方法が考えられようが、それでは送り量の大きな高トルク型ドリルの必要性を説明することが難しくなってしまう。もちろん、やすりで擦り続けたとしたら、そんな溝も残さずにさらに滑らかに加工できてしまう。
残される可能性は、現代人すら思いつかない特殊形状の刃、すなわち、加工面に与える衝撃を最小限に抑えながらも鮮やかな切れ味を発揮する刃が存在したのか、いっそのこと石を特殊な液体で溶かしながら削っていく方法だろう。
しかし、古代エジプト人にそんなことは可能だったのだろうか? 前者について、筆者に思いつく手がかりは何もないものの、実は、後者については有力な情報がある。かつて南米アンデスの山中には背丈30センチほどの深紅の葉をつけた特別な草が生育し、その草から得た汁はミネラルを溶かし、石を柔らかくすることができたと現地の人々は知っていたのである。そして、インカの人々は、その草の汁を用いて石を加工し、カミソリの刃すら入らぬような精巧な石組みをつくり上げてきたと伝えられていたのだ。
そんな話を参考にすると、想像力は掻き立てられる。筆者独自の仮説だが、かつてナイル川周辺(上流域含む)においても、同じような草が生育し、古代エジプト人もその草の汁を用いて石の器を加工していた可能性はないだろうか? もし石を柔らかくできたら、送り量の大きな高トルク型のドリルでも石の器を割ることなく加工できたことが説明される。だが、残念ながら、100年近く前のアンデスにおける生育情報を最後に、その草の現存状況に関しては、確認はおろか調査すらされていないようである(詳細はケイ・ミズモリ著『ついに反重力の謎が解けた!』<ヒカルランド>参照)。
(文=水守啓/サイエンスライター)
【水守 啓(ケイ・ミズモリ)】
「自然との同調」を手掛かりに神秘現象の解明に取り組むナチュラリスト、サイエンスライター、代替科学研究家。 現在は、千葉県房総半島の里山で農作業を通じて自然と触れ合う中、研究・執筆・講演活動等を行っている。著書に『世界を変えてしまうマッドサイエンティストたちの【すごい発見】』、『ついに反重力の謎が解けた!』、『底なしの闇の[癌ビジネス]』(ヒカルランド)、『超不都合な科学的真実』、『超不都合な科学的真実 [長寿の秘密/失われた古代文明]編』、『宇宙エネルギーがここに隠されていた』(徳間書店)、 『リバース・スピーチ』(学研プラス)、『聖蛙の使者KEROMIとの対話』(明窓出版)などがある。
ホームページ: http://www.keimizumori.com/