他人同士が同じ建物内で生活するマンションやアパートでは、ささいなことがきっかけでトラブルになることも多い。しかし、「たかが隣人トラブル」と軽く考えてはいけない。過去には隣人トラブルで何度も殺人事件が起きており、2017年にも、騒音が原因で隣の住宅に住む高齢女性を殴って死亡させる事件が発生している。
こうした事件に巻き込まれないためには、隣人とのトラブルにどう対処するのが正解なのだろうか。アパート2棟を所有するオーナーに話を聞いた。
隣人トラブルで4年で3回の引っ越し
最初に、実際に隣人トラブルに巻き込まれた住民の例を紹介しよう。
東京都内に住む布川勝さん(仮名、26歳)は、4年間で3回の引っ越しを余儀なくされた。原因は、すべて隣人トラブルだ。いったい何が起きたのか。
「最初に住んだのは、家賃5万円のアパート。『鉄筋コンクリートだから隣の部屋の音の心配はいらない』と思いきや、住んでみると洗濯機を回す音や家具を移動する生活音がけっこう聞こえる。でも『お互いさまだ』と思い、私は特に気にしていなかったんです」(布川さん)
ところが、隣人は違った。布川さんの友人が部屋に泊まりに来て談笑していると、隣から壁を叩く音が聞こえた。いわゆる“壁ドン”だ。
「『うるさかったのかな』と思い、そのときは会話のボリュームを下げました。ところが、その日以降、ことあるごとに壁ドンされるようになりました。こっちは、隣の生活音が気になることがあっても我慢していたんです。いい加減うんざりして、ある日私から壁ドンすると、信じられない衝撃でドンドンドンッと連続で壁ドンが返ってきました。『もうダメだ』と思い、引っ越しました」(同)
しかし、運が悪いことに、引っ越し先でも隣人トラブルに巻き込まれる。隣に住む大学生が毎晩、友達と部屋でどんちゃん騒ぎを繰り広げたのだ。
「管理会社にクレームを入れたら『騒音注意』のポスターを貼ってくれたのですが、まったく効果がありませんでした。そこで、もっともうるさかった日に、ついに近隣住民を装って警察に通報したんです」(同)
その効果で数日は騒ぎが収まったが、しばらくすると再びどんちゃん騒ぎが始まり、布川さんはまたも引っ越しを余儀なくされた。「同じ轍は踏むまい」と、次のアパートは鉄骨鉄筋コンクリートの角部屋を選んだという。
ところが、騒音トラブルの原因となるのは同じアパートだけではなかった。
「アパートの真横に一戸建てがあったのですが、その家の窓から毎日音楽が流れてくるんです。しかも、けっこう大きな音で。今度は『もう直談判するしかない』と思い、その家まで行って騒音の苦情を入れました」(同)
しかし、先方との話し合いはこじれ、危うく喧嘩に発展しかけたという。結局、三度目の引っ越しをするはめになってしまった。布川さんは言う。
「大家さんは近くにいないし、管理会社もまともに対応してくれない。警察に言っても意味がない。正直、隣人か大家に引っ越し費用を負担してもらいたいくらいです」(同)
契約段階での管理会社の見極めが重要に
こういう場合、住民はどのように対応するのが正解なのだろうか。アパート2棟を所有するオーナーの鎌田恵介さんは、こう話す。
「基本的に、入居者のトラブルは管理会社が対応するようになっています。個人的には、家を借りる段階で、管理会社、そして担当者が信頼できる人物かそうでないかを見極めることが最重要ポイントだと思っています」(鎌田さん)
管理会社の対応は『注意喚起のポスターを貼る』『電話で連絡する』『一軒一軒回って直接住人に呼びかける』などケースバイケースで、明確な規定があるわけではないという。布川さんの場合は、担当者がとりあえず動いてくれたものの、効果がなかったケースといえるだろう。
「私が所有する物件の管理会社は知人の紹介だったので安心してお任せしていますが、この業界にいると、評判の悪い管理会社の噂も耳に入ってくるのは事実です。そこは借り手側にはわからないことなので、個々の担当者の対応ぶりなど、自分に合うか合わないかで判断するしか方法はありません」(同)
とはいえ、布川さんのように当事者間ですでにトラブルが発生している場合は、管理会社だけでなく大家が仲介に入るケースもあるという。
「あくまで私のやり方ですが、その場合はまずお互いの言い分を聞きます。しっかりヒアリングした上で、『○時以降は物音に気をつける』などの取り決めをし、『それでも改善しなかった場合は退去してもらう』と通告します。実際に退去させるとなると、また難しいのですが、約束することが効果的なんです」(同)
トラブルが原因で退去することになっても、管理会社や大家に不手際がない限りは引っ越し費用を負担することはまずない。ただし、「人気物件なら、費用を負担しても早く出ていってもらうこともあるかもしれない」と鎌田さん。
「なぜなら、人気物件ならすぐ次の入居者が決まるからです。トラブルを長引かせるより、退去させてしまったほうがいいケースもあるのです。それもケースバイケースではありますが……」(同)
家賃が高いマンションほどクレームが多い?
布川さんは鉄筋コンクリートのアパートにもかかわらず、隣人トラブルに巻き込まれている。壁の材質などは、大家側の責任にならないのだろうか。
「壁の材質はピンキリで、同じ鉄筋コンクリートでも高いものもあれば安いものもある。その違いが音漏れに影響することは考えられます。ただし、それが家賃に反映するかというと、そうでもない。家賃には築年数や立地も関係してくるので、『家賃が高い=いい材質の壁を使っている』とは限らないのです」(同)
さらにいえば、家賃が安いからといって隣人トラブルの発生率が上がるわけでもない。むしろ、家賃が高いマンションほど入居者のクレームが多いこともあるそうだ。その場合、管理会社だけでなく、事前に隣人の情報を把握しておくことも重要になるという。
「ある程度条件がいい物件を見つけたら、近隣にどんな人が住んでいるかを管理会社に確認しておくといいでしょう。隣の住民の年齢や性別くらいは教えてくれるはずです。生活リズムが違うと騒音が気になったりするので、会社勤めの人が多いのか学生が多いのか、などもあらかじめ聞いておくべきです」(同)
とはいえ、「家探しは縁でもあるので、気に入らなければ我慢しないでさっさと引っ越したほうがいい」と鎌田さんは言う。隣人のためにストレスを抱えるほうが、よっぽどマイナスなのだ。
(文=島野美穂/清談社)