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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国、台湾への軍事侵攻に向け沿岸部にミサイル整備…習近平、悲願の中台統一か

文=相馬勝/ジャーナリスト

 中国側の窓口機関、海峡両岸関係協会トップの陳徳銘会長も当時、台湾・中央通信の取材に「中国には台湾と建設に向けて協力できる技術、資金があるものの、これは政治的な問題で、実現には時間が必要」と述べるにとどまっていた。

 ところが、ここにきて中国における技術分野の最高研究機関で中国政府直属の中国工程院が「台湾海峡海底トンネル鉄道計画」をぶち上げたのだ。中国工程院のメンバー(院士)は現在600人あまりで、中国版新幹線である「高速鉄道プロジェクト」など国家の最重要プロジェクトには必ず携わっており、最近では習氏が「国家千年の計」として自ら提示した史上最大規模の建設プロジェクトとなる河北省雄安県一帯の「首都経済圏構想」も中国工程院が深くかかわっている。

 工程院が示した台湾海峡海底トンネル鉄道計画によると、起点は福建省沿岸の平潭(へいたん)島で、台湾側の最終地点は新竹市で「台湾のシリコンバレー」と呼ばれるIT関連の企業や工場が集中している沿岸都市。

 この計画は日本の青函トンネルがモデルだが、青函トンネルが海底下約100mの地中を穿って、海底トンネル部分は23kmなのに対して、中台海底トンネルは海底トンネル部分が135kmと長い分、トンネルの深度も海底下約150mとけた外れに深くなっており、技術的に極めて難しいとみられる。

 しかし、無事完成すれば高速鉄道の速度は時速250kmと、中台間を約30分でつなぐ計算だ。工程院は台湾海峡海底トンネル鉄道を旅客用として位置付けているが、場合によっては軍事的にも兵員輸送に転用でき、解放軍による台湾侵攻の重要な輸送ルートとなる。
 
 台湾側も軍事転用に警戒を強めており、いつ着工できるかどうかは現時点では見通しはつかない状態。だが、中国側の計画では「2030年の完成を目指す」としている。そのとき、習氏は73歳となるが、この春の全人代で国家主席の2期10年の任期を撤廃しただけに、理論上は習氏がそのまま最高指導者として君臨することは可能だ。

台湾統一

 中国では習近平体制に入ってから、軍事演習を強化しているほか、最近でも解放軍による10万件以上の「有償服務(ビジネス)」を全面的に禁止する決定を下した。7月初旬の軍機関紙「解放軍報」も社説で「中国人民解放軍は50年も戦争を経験しておらず、平和病にかかっており、平和ボケが蔓延している」などと軍内の弛緩した雰囲気を痛烈に批判した。軍機関紙が軍を直接的に批判するのは極めて異例。

 習氏は12年秋に党中央軍事委主席に就任して以来、「号令がかかれば集まり、集まれば戦争の準備をし、戦えば勝つ」との軍の基本原則を発表して、全軍に檄を飛ばし、翌年からは毎月のように長期間の実戦形式の軍事演習を行っている。これを踏まえて、社説は「戦争を止められるのは、我々に戦闘能力があってこそだ」述べるとともに「軍は今こそ正しい道に戻り、戦闘訓練に集中しなければならない」と直言するなど、この「平和ボケ社説」は習氏の強い意向が働いているのは間違いない。

 その習氏は台湾の対岸の福建省幹部を17年間も務めるなど台湾問題には強い関心を持ち、「自身の最高指導者としての悲願は中台統一」と親しい側近に語っていると伝えられており、習氏の軍備強化路線の目的は、米軍を撃滅しての台湾統一とみてもおかしくはないのである。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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