――事実上の日本の領土が、これだけ広がっていると。
猪瀬 尖閣諸島が日本にとって地政学的に重要であることは、この図を見れば視覚的にもわかるでしょう。東京都は既に、南鳥島、沖ノ鳥島、伊豆諸島、小笠原諸島などを都の行政地域として管理してきた実績があり、ノウハウの蓄積もある。その流れで尖閣だけ放置するのは、むしろ不自然だとの見方もあるわけです。
――東京都知事の決断に、唐突感を持つ国民も多いようです。
猪瀬 今回の(購入の)決断を突然の思いつきだと思われている方々も多いようですが、石原さんと尖閣諸島の関わりは長いですからね。僕が副知事になるずっと前だけど、70年代に船をチャーターして青嵐会の有志と尖閣諸島沖まで実際に行ってますし、その年か翌年には地権者とコンタクトを取って「島を売ってほしい」と打診していますから。だから思い入れは強いし、一貫している。
――都がホームページなどでお願いしている尖閣諸島寄附金も、額が増え続けています。
猪瀬 募金のための口座を開設したのが4月27日なんですが、2週間ほどで2億円を突破して、5月の中旬で7億円超、現在では10億円を超えています。中には「年金暮らしで多くは出せませんが」と言って、数千円、数万円の貴重なおカネを納めてくださった方もいる。これは一種の国民投票だと僕は感じています。これが今の国民の意思だということを、国ははっきり認識してもらいたいんだけど……現状では尖閣諸島に経済・行政活動の実体をつくる努力をまったくしていない。だから東京都がやるということでね。
――国は今どんな動きなんでしょう?
猪瀬 政府はまるで無関心ですね。石原(慎太郎)都知事はこの件で野田(佳彦)総理と直接会って話したいとの意向を示したけど、総理は「両トップが話すレベルではない」と発言している。藤村(修)官房長官も尖閣の国有化について「必要なら」と、その気はなさそうですね。
――自民からも、はっきりした声は聞こえてきません。
猪瀬 石原さんが谷垣(禎一)さんに言ったそうなんですよ。「民主党にも尖閣を重視している議員はいるんだから、超党派で国政調査権にのっとって尖閣に行ってきたらどうか」と。そしたら半年たっても返事がないので、どうなったかと聞いたら「海上保安庁が船を出してくれないから行けない」と答えたそうです。だったら都が船を貸すからと言ったらしいですけどね。政治家に行く気持ちがあれば、方法なんてなんとかなるのにね。
――そういうさまを見ているだけに、都知事は国に何も期待をしていないのでしょうか?
猪瀬 日本政府は、ひとことでいうと、「役所」でしかないんですよ。日本は歴史的にも、通常の国家としての意思決定をずっと放棄してきた。それは戦前もそうで、政府ではなくて、霞が関という役所でしかない。僕の著書の『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)にも書いたが、戦争行為を始めたのも政治の意思ではなく、ここは統帥、これは文官、あれは軍部という「官吏の事務」にすぎない。これではダメなんです。先日、たまたま駐日ドイツ大使とじっくり話す機会があったんだけど、あの国は東西分裂や統一という重い歴史を経てきたせいか、国家としての意思決定ができるという意味で日本と違う。福島の事故を受けて3カ月間、ドイツの原発をどうするかを国民みんなで議論して、7月31日にはもう法律を作っている。国としての将来像を、議論を通して一定の時間の枠の中で作り上げる。だから、日本も尖閣諸島については、国民全体の意識として問題点を一つ一つ整理していきながら、答えを明らかにしてくべきなんだと思います。
(本文は『日本人が知らない領土の真実』(宝島社)からの一部抜粋)
■尖閣諸島寄附金について
・みずほ銀行 東京都庁出張所(店番号777)
普通預金 口座番号 1053860
口座名「東京都尖閣諸島寄附金」
・ゆうちょ銀行
口座記号番号 00110-9-386056
加入者名「東京都尖閣諸島寄附金」
詳細は都のHPまで