「#石原慎太郎の都民葬に反対します」――。そんなハッシュタグが7日午前、日本国内のTwitterのトレンドに入った。
発端のひとつは日刊スポーツが4日に公開した記事『石原慎太郎さんの「都民葬」問われ小池百合子都知事「都としてできるかぎりのことを」』だった。現段階で石原氏の「都民葬」が行われる方針が示されたわけではないのだが、Twitter上では早くも都の税金を原資にした石原氏への葬儀挙行に対し、否定的な見解があふれている。「顕著な功績があった者」に「自治体として弔意を示す」ことを条例で定めている自治体もあるが、東京都にはそうした条例があるのだろうか。
同記事によると、小池百合子東京都知事は4日の定例会見で、今月1日に亡くなった石原元都知事について、「都民葬」などを執り行うかどうか問われ、「ご遺族の方々のご意向を最大限に尊重し、都としてできるかぎりのことをやっていきたい」と述べたのだという。都としての意向は石原元都知事の長男の伸晃氏らにも伝えているのだという。この発言を、過去に不適切な政治的な発言のあった石原氏の「都民葬」挙行の“地ならし”だと解釈したり、中央政界に対する小池知事の布石と見たりする向きがTwitter上であったようだ。
南相馬市は災害で犠牲となった職員を弔う弔意条例を施行
全国の自治体の中には、当該自治体に「顕著な功労のあった者の弔慰」に関する条例を定めているところもある。
例えば、東日本大震災の大津波と東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示区域に指定された福島県南相馬市は2020年9月17日、「南相馬市弔慰に関する条例」を施行した。同条例は次のように定められている。
<(目的)
第1条 この条例は、南相馬市(以下「市」という。)の自治に顕著な功労のあった者が逝去されたときに、市が行う弔慰に関し必要な事項を定め、もって故人の市への貢献に対する感謝及び追悼の意を遺族及び市民に表すことを目的とする。
(市葬の執行等)
第2条 次に掲げる者が死亡したときは、市葬(市が主催する葬儀をいう。)を執行し、又は弔慰金を支給することができる。
(1) 市の自治に対し、その功績が特に顕著であると認める者
ア 名誉市民(南相馬市名誉市民条例(平成18年南相馬市条例第5号)第1条に規定する者をいう。)
イ 現に市長又は議長の職にある者
ウ 8年以上市長又は議長の職にあった者
(2) 災害業務に従事する職員等であって当該業務が原因で死亡したと認めるもの
(3) その他市長が特に認める者>(以下略、原文ママ)
市議会に提出された同条例案の素案では以下のように提案理由が示されている。
「令和元年東日本台風において、深夜まで災害対応にあたっていた職員が不慮の事故に遭い尊い命を失ったが、職員の市への貢献に対する感謝及び遺族への追悼の意を表すための制度がこれまでなかったこと、また、本市の自治の発展に寄与し、長年にわたり顕著な功労があった者が逝去した場合の市葬等の制度がなかったことから、市葬の執行等に関し制度を整えるもの」
震災や原発事故、2019年の東日本大風などでは、首長や市の職員は文字通り命がけで職務を遂行していた。職務遂行中に亡くなった者に対する追悼の意を示すような制度がなかったことが、条例起案の発端になっている。地元メディア関係者は次のように語る。
「他の自治体がどうかわかりませんが、南相馬市の同条例は災害弔慰金に関する制度の延長線上で制定された性格が強いものです。比較的に『自治体への貢献に報いる』という趣旨が明確に打ち出されているものではあったと思います。ただ、それに合わせて長年市政を担ってきた首長や議会議長も加えるという部分などに関しては市民からハレーションがあったようです。
この条例に関するパブリックコメントでも、『新型コロナ感染拡大の最中、税収の落ち込みも懸念されるところ尚更である。時期尚早と思う』『弔慰の在り方については公務への尽力功績も様々であるので、慣例による市長や議長の裁量権で十分であり、後は市民個々の判断による弔慰で十分と考える』などという厳しい意見もあり、まったく波紋がなかったわけではありません」
他自治体の「弔意条例」では名誉市民などが対象
東京都東村山市の「自治に顕著な功労のあった者の弔慰に関する条例」では、「東村山市名誉市民条例の規定による東村山市名誉市民」「市職員で生命をとして職務を遂行したことにより死亡したと認められる者」「東村山市長又は東村山市議会議長の職にあった者(死亡したときに現にこれらの職にあった者を含む)で、その功績が特に顕著であると認められるもの」「その他市の自治に貢献した功績が特に顕著であると市長が認める者」が対象となっている。
また静岡県熱海市の「熱海市の発展に顕著な功労のあった者の弔慰に関する条例」では、名誉市民などの対象者規程は前述の南相馬、東村山両市と変わらないが、首長に関しては「満12年以上市長の職にあった者」と規定されていた。
東京都には「特別職」「名誉都民」に関する「弔意条例」はない
「都民葬」が話題になっている東京都はどうなのか。東京都政策企画局総務部秘書課の担当者は「特別職が亡くなった際の弔意の示し方に関する都条例はありません」と話す。
では、他の自治体で「自治体葬」の対象となっている「名誉市民」などに関する「弔意」に関する条例はあるのだろうか。社会文化の興隆などで都民の敬愛のシンボルとなった人物に対し、都は東京都名誉都民条例を定めている。
これまで名誉都民には、元東京市長・司法大臣の故・尾崎咢堂氏を皮切りに、元都知事の故・東龍太郎氏、ソニー名誉会長だった故・井深大氏、聖路加国際病院理事長として知られた故・日野原重明氏、女優の黒栁徹子さん、指揮者の小澤征爾さんら123人が選ばれているが、石原慎太郎氏の名前はない。
なお、名誉都民が亡くなった際、都が自治体として「弔意を示す」ことを規定している条例はあるのかを聞いたところ、都生活文化局文化振興部文化事業課の担当者は「(そうした条例は)ありません」と話した。
小池知事が石原元都知事に対する弔意を示すのにあたって「都としてできる限りのこと」はどのようなことなのか。仮に「都民葬」を挙行するとしても、東京都に根拠法となる条例がないのなら、その財政的支出は知事の裁量で専決処分するのだろうか。推移が注目される。
(文=編集部)