「来年度から総定員を2800人から1200人にする」
生徒の定員を半数以下にする――そんな学則変更の申し出があったのは2020年3月、ひょうご女性交流館(神戸市中央区)で開かれた「令和元年度第2回兵庫県私立学校審議会」でのことだった。学則変更を申し立てたのは、学校法人摺河学園が運営する兵庫県播磨高校(姫路市)。ソフトボール部顧問の男性教諭(41)が部員の1年生女子生徒(16)を平手打ちし、あごが外れる大けがを負わせた”体罰事案”で、全国的な注目を集めている現在の姫路女学院中学校・高等学校だ。
「少子化時代に合わせた定員に改める」
「少子化時代に合わせた定員に改めるため」というのが学則変更の理由。審議会事務局の兵庫県総務部教育課によると、摺河学園は当時休校中だった兵庫県播磨中学校(再開時の計画定員180人、休校前の定員は600人)を再開させ、兵庫県播磨高校と中高一貫校にするプランを提示したのだという。
「審議会は、中学校が再開するという点、中高一貫校として学校運営をするのに適切な施設や設備、運営体制があるかという点を検証するため、現地調査を実施しました」(同教育課担当者)
委員の現地調査を経て、学則変更を「認可相当」とする答申が出たのは21年3月の「令和元年度第2回兵庫県私立学校審議会」。「兵庫県播磨高校」の校名は「姫路女学院」に変更されていた。摺河学園の摺河祐彦理事長は同審議会の委員でもある。県内の高校受験用学習塾経営者は語る。
「兵庫県播磨高校は大正時代からある古い学校です。同校の20年度までの募集定員は380人、21年度以降、普通科教養コースを30人減らしました。どこの学校も少子化の影響で生徒獲得に苦労しています。同校もそうだとは思いますが、以前に作られた学則の定員を実際の生徒数と合わせる必要があったのだと思います。少なくとも同校への出願者は少なくありません。
商業科は全国商業高等学校協会の検定取得に注力し、普通科にアスリートコース・強化運動部を持つことで知られます。この強化運動部の中に今回体罰が発生したソフトボール部も含まれています。進学を目指す特別進学国際教養コースと教養コースは、“本命”の県立高校合格を目指す受験生が、併願校として出願するケースも多いです。
県内の各学習塾の調査結果を踏まえると、同校の国際教養の20年度の出願倍率は約10倍、21年度が約9倍、22年度が7倍弱でした。志願者数が年々減少していたのは確かですが、それなりの出願者は確保できていたといえます」
今回、体罰が発生したアスリートコースはどうだったのか。前述の学習塾経営者は次のように語る。
「同校の目玉であるアスリートコースは毎年度30人を募集していましたが、20年度の出願は21人で定員割れを起こしました。
21年度の出願も32人と低迷しましたが、仕切り直しを経た22年度は50人に増えたようです。校名変更と中高一貫校化は同校創立100周年記念事業の一環として発表されたもので、地元メディアも大きく取り上げました。
アスリートとして優秀な生徒は各校でし烈な争奪戦が行われます。優秀な生徒を選抜し続けることのできる立ち位置を確保するためには、結果を残さなければいけません。勝利至上主義のもと、精神論的な指導を学校として黙認していた可能性も高いのではないでしょうか」
校名変更でイメージアップ図るも体罰事件で台なし
同県公立中学校学校の女性教員は次のように指摘する。
「学校経営の観点から、中高一貫校化と校名変更は“仕切り直し”の意味があったのだと思います。良いイメージがあったのですが、今回の体罰の一件で吹っ飛びました。
あの体罰は傷害罪でしょう。しかも殴られてぼろぼろになっている生徒を、5時間も立たせていたのに、顧問以外の教員やチーム・学校スタッフも放置していたんですかね。強化運動部で顧問と生徒以外いないというのは考えられません。
また暴行した教員の処分を、学校が即決できていない理由もよくわかりません。公立学校ではあり得ない対応だと思いました。自分の教え子をこの学校に進学させたくありません。来年度以降の出願に影響が出る可能性は非常に高いと思います」
姫路女学院「体罰に当るか判断する」→「体罰認め謝罪」
体罰について、姫路女学院を運営する摺河学園の摺河祐彦理事長は今月3日、会見で「被害に遭った生徒や両親はもちろん、それ以外の生徒にも心から申し訳なく思っている」などと謝罪。一部報道を参照する限り、学園側は会見前後まで「教諭の行為が体罰に当たるかどうか判断する」などと説明していたが、4日午後4時現在の公式サイトには以下のように、「体罰を認める内容」の謝罪文を掲載した。
「この度、本校ソフトボール部顧問による部員への体罰がありました。この問題は、テレビや新聞でも報道され、生徒や保護者の皆様をはじめ、卒業生の皆様、各方面の皆様に多大のご心配、ご迷惑をおかけして誠に申し訳なく思っております。今後は、再発防止に努めるとともに、被害に遭われた生徒と保護者の方が1 日も早く心身を快復なさるよう、また、在校生の心のケアに注力してまいります」
神戸新聞が3日に報じた、『姫路女学院高ソフトボール部体罰 顧問の男性教諭、ほかにも複数の暴行や暴言か 理事長が謝罪』によると、問題の教諭は9月24日朝、ユニホームを忘れてきた女子生徒の顔を平手打ちし、顎が外れる大けがを負わせたうえで、「お前なんかいらん」などと暴言を浴びせたという。
生徒は顎が外れたまま5時間以上、教諭のそばに立っていたという。また翌日も尻を蹴られるなどし、精神的ショックが大きく登校できていない。生徒側は3日、兵庫県警に被害届を提出し、教諭は現在、自宅謹慎中という。
(文=Business Journal編集部)