大学入試の難易を測る偏差値は絶対的な基準ではなく、模試評価をする側の受験生集団の質によって変わる。ただ、合格偏差値の変化は、その大学の難易変動を見るのに参考になる。
そこで、朝日新聞出版『大学ランキング2016年度版』の8年前(2015年)の河合塾偏差値ランクと、最新の河合塾「Kei-Net」の2023年の予想偏差値ランクを比較できるよう表示してみた。2015年の朝日の大学ランキングでは、直近2年間の河合塾全国模試及び入試結果から作成、文系は英国数(地歴公民)、理系は英数理で設定した。
本稿では便宜的に、人文系と法・政治系、経済・商・経営系の文系3学部系統と、理工系・医療系の理系2学部系統に分けて、2回にわたりレポートしたい。50%(合格可能性)ラインの偏差値帯である2015年度偏差値ランク50.0~52.5以上で、2023年度ランク55.0~57.5以上と、ほぼ同数に近い大学学部数になっている。
2023年のボーダーラインは、河合塾が予想する合否の可能性が50%に分かれるラインで、私立大の一般方式の難易度を示すボーダー偏差値である。前年度入試の結果と今年度の全統模試の志望動向を参考にして設定している。2022年11月現在の予想であり、今後の模試の志望動向等により変更する可能性がある。
ただし、2023年度のKei-Netに掲載されている偏差値は学部内の学科群が表示されており、本記事ではその最上位の学科の難易ランクを採用ししたため、この偏差値ランクはアップする傾向になる。
また、たとえば国際基督教大学のように独自な入試のケースは除いてある。また、この8年間で新設学部や学部改編の変更があり、単純に比較できない。2023年度の方が多岐にわたっている。また、学際系で学部分けが困難な場合もあり、その点を留意していただきたい。
多様化する人文系――ブーム去ったか国際教養、増えた心理学系
8年前の2015年頃は日本もグローバル時代の華やかな頃で、中堅私大でも国際教養学部が目立ったが、2023年にはそのブームも去った。早稲田大学の国際教養はトップであるが留学生も多く、別枠の印象である。入試も一般選抜で共通テストや外部民間英語検定を利用する独自な方式である。
また、入試が独特な国際基督教大も偏差値ランクになじまず、上位ではあるが、前述のように割愛した。国際教養ブームは千葉大学のように国立大にも波及したが、ピークは過ぎたという声もある。
最近では、逆に心理学系の学科の躍進が目立つ。立教大学の現代心理や明治学院大学の心理、中京大学の心理など伝統のある古株や、西では立命館大学の総合心理も人気が高い。立正大学も同様だ。表には出ていないが、明星大学、愛知学院大学、龍谷大学、追手門学院大学、武庫川女子大学の心理も偏差値50.0~52.5以上にランク入りしている。
受験生の間で心理学に関心が高まっていることも背景にある。特に女子受験生からの関心が高まっているようだ。
国立大の教育学部が主流であった小学校教員養成課程は私大にも増設が続き、中堅クラスの私大にも受験生が集まりつつあり、早稲田大学や文教大学などの教育系が人気上昇中なのも、女子受験生の同様な動きであると考えられる。
人文系には女子大も多く、2015年は女子大伝統校が顔を並べていた。ただ、この頃から、1990年代のような高偏差値から緩やかな下降線をたどっているようだ。半面、2023年には昭和女子大学など中堅私立女子大の躍進が目立つ。
文学部や家政学部など伝統的な学問分野にこだわらず、女子が関心を持っている学際系や実学志向の新学部新設などが強みとなっているのであろう。
底上げが進む法学系――青山・法政の伸び目立つ
法学系は学際系の学科や新分野進出などが比較的少ないため、大きな動きは少ない印象だ。ただ、この8年間の変動を見ると、2015年当時は早慶がダントツだったのに、2023年にはGMARCH(学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)が追い上げ、その差が縮小している。特に中央大学の法は司法試験合格でも実績のある伝統学部である上に、キャンパスが八王子から東京都心に移転することが好感され、上智大学の法と並ぶランクにアップした。
法学部の偏差値は司法試験合格者数と相関が深いように思われる。ただし、大学・学部ではなく法科大学院などの合格者である。だから、この数字が直接その大学法学部の司法試験突破力を意味するものではないが、教育レベルの1つの指標にはなる。
2022年の私大法科大学院の合格者数と合格率は、慶応大学(104人、57.5%)、早稲田大学(104人、44.8%)、中央大学(50人、26.2%)、同志社大学(25人、30.9%)、日本大学(24人、32.0%)、立命館大学(19人、25.3%)明治大学(16人、18.6%)、関西大学(15人、28.3%)、創価大学(12人、37.5%)、法政大学(12人、22.2%)となっている。
ちなみに、8年前の2015年の法科大学院別合格者数158人は、中央大学170人、慶応大学158人、早稲田大学145人、明治大学53人、同志社大学33人、上智大学29人、法政大学29人、立命館大学27人、関西大学22人、立教大学16人であった。8年前の方が偏差値に近い結果になっている。
両年を比較すると、2015年は13人だった日本大の躍進が目立つ。創価大は上位に進出しているが、実数では14人から2人減っている。
この司法試験合格実績でも、中央大学が都心移転で上位に復活するのではないかと思われる。その点で、法科大学院卒が受験資格でないため、学部卒の受験者の多い司法試験予備試験合格者の出身校を調べてもおもしろい。
ただ、国家資格に関係なく、リーガルマインドを持つ職業人への社会的ニーズは高まっているので、その点から法学部のリサーチをしてもよいだろう。
経済・商・経営系――立教大経営と関西大の伸び目立つ
2023年度で立教大の経営は早慶に次ぐ難易ランクをつけている。課題解決型授業などアクティブラーニングを重視するBLP(ビジネスリーダーシップログラム)は、同学部だけでなく、今や全学的に取り入れられている。同大学では、異文化コミュニケーション学部とともに受験生からも人気を集めている。
青山学院大の人気上昇も目立つが、これは経済学部や文学部などの文系7学部を1年次から青山キャンパス(東京都渋谷区)に移転したことが影響しているのであろう。
関関同立ではトップランナーの同志社大学に続き、関西大学の経済や商の人気上昇が目につく。同じ大阪の大阪公立大学の誕生も追い風になり、併願も増えているという情報もある。
逆に関西学院大学の経済・商などの人気落ち込みが気になる。昨今の銀行や生損保などの業界の大量採用方針が後退しており、金融関係に強いという同大の伝統が裏目に出ているのではないか、という推測もある。
立命館大は変わらずというところか。
異色の東京理科大学の経営とともに、MARCHに続く成蹊大学の経済、武蔵大学の経済、東洋大学の経済・経営の伸びも注目できる。ただ、これらはMARCHクラスの東京都心の大学が厳しい定員抑制策による合格者絞り込みの影響もあったと考えられる。実質競争率が上がり、併願校として選ばれたという見方もできるからだ。その抑制策緩和の影響が、2023年度入試以降にどの程度出てくるか注目される。
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