10年ほど前にTwitterなどのSNS上で、迷惑行為の動画が話題を呼んだ時期があった。一部の若者がバイト先などで悪ふざけをする様子を、仲間が撮影して投稿したところ、不適切であるとして大きな問題に発展するケースが相次いだ。
そのためTwitterは「バカッター」「バカ発見器」などと揶揄され、悪ふざけをした若者たちは社会的制裁を受けることで、迷惑行為の動画はだんだん減っていった。
ところが、ここ最近、「Z世代」と呼ばれる世代の迷惑行為が、TikTokなどのSNS上で急速に拡散されている。Z世代とは、アメリカで広まった「ジェネレーションZ」に由来する言葉で、現在の中学生から20代後半あたりの若者の総称。スマホやSNSが普及した中で育ち、友達とのやり取りや楽しみはほとんどがスマホ経由という環境に身を置く人が多く、日常に起きたことをメモ代わりにSNSに保存するといった利用法も広く定着している。
そんななか、回転寿司最大手スシローで、ある高校生が醤油ボトルや湯飲みを舐め回す様子を動画に撮り、SNSに投稿したところ、大炎上した。本人に猛批判が浴びせられただけでなく、その高校生が通う学校にも誹謗中傷が殺到し、本人は自主退学したとも報じられた。それにとどまらず、海外のメディアでも広く報じられ、「日本人のモラル低下」といった指摘も声も多くみられる。
すると、この騒動に触発されたかのように、はま寿司やくら寿司でも迷惑行為をする若者の動画が出回っているほか、吉野家やサイゼリヤ、いきなりステーキ、ココ壱番屋、餃子の王将といったさまざまな飲食店で営業を妨害するかのような迷惑行為を繰り広げる動画が、雨後の筍よろしく多発するようになった。拡散されている動画のなかには数年前のものも混じっているようだが、多くは最近撮影されたとみられる。
迷惑行為の現場にされた飲食店では、消毒・殺菌や食器等の入れ替えなど、手間や費用をかけた対応を余儀なくされている。なかには莫大な損失を受けるケースもあり、ほとんどの店は迷惑行為を行った人物に対して法的措置をとり賠償を求めていく方針のようだ。
このような流れのなか、特に冒頭のスシローで迷惑行為を行った高校生の動画に関連し岐阜県警が、撮影してSNS上に公開した人物と、最初に拡散させた人物に対し、書類送検する方針と報じられた。
迷惑行為を行った人物や、動画を撮影・公開した人物が偽計業務妨害等の罪に問われるのはわかるが、拡散する行為も罪に問われるのは珍しいのではないか。過去に杉田水脈衆議院議員が、Twitter上でジャーナリストの伊藤詩織さんを誹謗中傷するツイートに「いいね」を押して拡散した行為が名誉棄損に問われたケースはあるが、それは「議員」という立場があり、極めて影響力が大きいことがひとつの要因だったと捉えられている。
また、今回は最初に拡散した人物が書類送検されるようだが、インフルエンサーなど拡散力のある人が後から拡散するケースについても、場合によっては立件される可能性があるのだろうか。
山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、次のように解説する。
「ポイントは、“その行為“の意味するところがどこにあるかです。例えば、あるお店の従業員用出入り口に暗証番号式のドアがあったとします(数字をいくつか押してロック解除するドア)。
ここで、誰かが暗証番号を解読して違法に侵入しているところを、さらに誰かがその現場をたまたま撮影して『犯人がお店に侵入する衝撃映像です!』などとして映像を拡散させた場合、このお店のセキュリティが全世界にバレてしまいます。
お店にとっては営業妨害以外のなんでもありません。『ふざけんなこのやろう』というところでしょう。他方で映像を拡散させたやつは、気持ちとしては『悪いやつを撮影してやった』などとバカな正義感があるわけです。
ここに、『このお店のセキュリティを全世界にばらす』などという気持ちはないのかもしれません。しかし、やっていることは「このお店のセキュリティを全世界にバラした」ことに間違いありません。
要するに、通常の頭を持っていれば、“その行為”がどんな効果を招来するか十分にわかるはずなのに、そのときバカな考えに捉えられて思いつかなくなってしまう場合があるのです。
今回の『拡散した人物』も同じです。通常の頭を持っていれば、この映像を拡散すればお店にとって迷惑となることを思いつくのに、『みんな見て見て』といったバカな目立ちたがり根性で事に及んでいる以上、犯罪者のレッテルを貼るべきなのは当然です。『バカ行為の映像投稿』行為と『バカ映像の拡散』行為は、どんどん検挙してもらいたいです」
SNSが瞬時に世界中へ情報を拡散させることもあるツールであることから、深く考えずに悪ふざけをする行為や、その動画を公開する行為、そして拡散させる行為は、甚大な影響を及ぼす可能性があると、スマホを持つ人は全員、肝に銘じる必要がある。
(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)