「自営業者は、お客さんを選べないことが難点です。多少変な人だなと思っても、理由なく断るわけにはいきません。大半は普通の人ですが、なかには困ったケースもあります。以前、いつも通りお客さんにうつ伏せになってもらい、マッサージをしていたら、そのお客さんから『最近、悩みとかあります?』と聞かれました。その頃、母親の具合が悪かったので、『母の足が悪く、思うように動けないようで、それが気になっています』と話しました。話を続けていると、『大変ですね…』と言いながら泣いていたんです。他人の親の話をこんなに親身に聞いて涙まで流してくれるなんて、『いい人だなあ』と感動しました。すると、『今度、一緒に祈りに行きましょう』と誘われました。宗教の勧誘とわかり、感動した自分がバカに思えてきました」
誰でも気軽に入れる店舗を運営している自営業者は、客をむげには扱えない。勧誘する側にとってみれば、そこが狙い目なのだろう。
「しばらく、『お母さんも連れて、一緒に行きましょう。絶対に良くなります』としつこく誘われました。そんな遠くまで行ったら、さらに足が悪くなりかねません。とはいえ、追い返すわけにもいかないので、生返事を繰り返してやり過ごしました。その日はあきらめて帰ってくれましたが、その後も、診察ではなく友達のように頻繁にクリニックに寄るようになりました。うちは予約制だから、お客さんがいない空白の時間も結構あるので、そこを狙って何度も来ます。ある時、会報と一緒にさりげなく振込用紙を渡されました。『なぜ払わなければならないのですか?』と聞いたら、『それもそうだけど……』と口ごもっていました。それから来る回数は減りましたが、今でもたまに来ますよ。自営業者の場合、住所と名前が公になっているので、毎月のように会報や振り込み用紙が送られてきます。迷惑な話です」
なかには、集団で押し掛けてくる教団もあるという。
「知り合いが何人かを引き連れて、『今からメシでも食おうよ』と言ってきたこともありました。どこかの教団に所属しているという噂を聞いていたので、遠回しに断りました。ほかにも、いきなり議員候補を連れてきて、『あいさつしに来てくれたから、時間つくって』と言われたこともありました。頼んでもいないのに、恩着せがましい言い方をするものだと腹立たしい感じでした」
自営業者は人付き合いが大事とはいえ、宗教などの勧誘は頃合いを見計らって、きっぱりと断ったほうがよさそうだ。
(文=編集部)