神戸女児殺害・死体遺棄事件は、君野康弘容疑者の逮捕、これまで見つからなかった腰骨などが、山林に棄てられていたポリ袋から発見されたことで、ひとまずの区切りを迎えた。全国紙社会部記者によると、事件はこれから“第2幕”を迎えるという。
事件の第2幕とは何か。それは、事件が起きた背景を探ることだ。君野容疑者のこれまでの経歴を追ってみると、水産高校卒業後に九州の陸上自衛隊に入隊したが、退職後には食品卸会社など複数の職を転々とし、風俗嬢に養ってもらっていた時期もあるようだ。広島、大阪と渡り歩き、その間、傷害、窃盗など多数の容疑で検挙されており、服役した過去もある。捜査関係者の話では、「暴力団に関わっていたこともある」という。
兵庫県・神戸にやって来たのは2008年5月のことだ。3年後の11年夏には、累犯窃盗の罪で有罪判決を受け、13年5月まで関西地方の刑務所に服役している。出所後、事件発生現場となった現在の住居アパートでも、騒音問題などで隣人とトラブルになったほか、上半身裸で公道に寝るなどの奇行が多々見受けられている。アパート近くの酒店店主は「焼酎をよく買って飲んでいた」と話す。その焼酎を路上で飲む姿も、近隣住民に多数目撃されている。
君野容疑者と同じアパートの住民は、「もしかしたらとの思いはあったが、本当に自分の近くに容疑者がいたことに驚いている」と語る。
殺害された生田美玲ちゃんと君野容疑者の接点が「猫」だったことは、すでに各メディアでも報じられているが、君野容疑者と同じアパートに猫好きな住民がおり、その住民は自分の飼っている猫を1匹、君野容疑者に譲り渡したという。その後、近隣に住む美玲ちゃんと、その友人A子ちゃんが、「猫を見せて」と時々遊びに来るようになったという。この住民は「もし、君野容疑者ではなく、自分のところで猫を見せてあげていたら、こんなことにはならなかった」と悔やむ。
君野容疑者の知的障がいに疑念も
さて、君野容疑者に関して、ひとつの疑問が浮かび上がっている。それは、君野容疑者は知的障がいがあり、療育手帳を所持しているといわれているが、本当に知的障がい者なのかという点だ。
君野容疑者は高卒後、陸上自衛隊に入隊しているが、知的障がい者でも自衛隊への入隊は可能なのか。陸上幕僚監部広報室によると「可能か不可能かは一概にはいえないが、銃を手にする職種なので、その身体検査は厳密に行っている」と話す。
仮に自衛隊入隊時に知的障がいがなかったとするならば、自衛隊退職後に知的障がいがあると判明したのだろうか。
療育手帳を発行している神戸市によると、「大人になってから知的障がいと認められるケースはある」という。もっとも、その判断は医師も含めた厳密な検査に基づくので、検査を受ける人が意図的に知的障がい者と認められるように操作することは難しいという。
しかし、ある医師は「できることをできないと振る舞うことで、知的障がいの判定を得ることは理論的には可能」と語り、なにがしかの意図を持って知的障がい者との認定を受け、療育手帳を手にしている人がいると明かす。
知的障がいを装い、生活保護受給?
生活保護に詳しい人物によると、療育手帳を手にしていれば、生活保護の受給がスムーズに行えるという。
2000年以降、右肩上がりで増え続けている生活保護費に対しては、世間からの批判も高まりつつあり、現在、各地方自治体では、新規の生活保護受給について「できるだけ就労支援を手厚く行う」(京都市生活保護担当職員)方向で対応し、水際で増加を食い止めることがほとんどだ。しかし療育手帳を持っていると「受給を認める方向で対応せざるを得ない」(同)という。
君野容疑者はいまだに事件について黙秘を貫いているが、仮に起訴する場合、責任能力の有無は大きな争点となってくる。近隣住民の間では「責任能力がないと判断されれば、釈放されてまたこの町に戻ってくるのではないか」と懸念する声も聞こえてくる。
「兵庫県警は、外部への公表をかなり慎重に行うことで知られている。もし責任能力がないと判断される事案なら、実名公表は行わないはずだ。すなわち、実名公表したということは、責任能力があると踏んでいるからだろう。知的障がいについても、詐病であるとする意見が強いです」(前出・全国紙社会部記者)
現在、警察は君野容疑者が「どうして生活保護を受給できたのか」という点に着目して捜査しているという。確認されただけでも08年以降生活保護を受給しているが、服役しても、出所後すぐに受給が再開されており、その経緯に注目が集まっている。
(取材・文=秋山謙一郎/ジャーナリスト)