●強引な勧誘
30歳のB氏は、2年前にカツラメーカー・Y社の毛髪診断を受けた。壮年型の薄毛だといい、施術を受け続ければ抜け毛は減って毛髪が増えるサイクルになると説明され、信じて施術を受け続けた。1年分の施術代料金、数カ月分のシャンプーやトリートメント、育毛剤などの購入代で合計100万円を超えていたが、ローン契約をその場で結んで入会した。
半年ほどたった頃、個室で状況説明があり、改善の兆しが見られないので、Y社で開発した頭皮マッサージ器を購入して使うようにと促された。その機材は50万円以上すると聞き、B氏は断ったが「これを購入しなければ、今後薄毛状況が改善しなくても責任持ちません」「これを毎日使い続ければ、必ず改善します」などと数時間にわたり説得された結果、B氏は追加ローン契約を結んで購入した。
しかし、数日たち冷静に考慮したB氏は、このマッサージ器を返品したいとY社に連絡を入れたが、「担当者は、長時間拘束して購入を無理に勧めたりはしていないと言っている。あなたが自発的に買ったものだから、返品は受け付けない」と拒否された。それでもB氏が返品を迫ると、「事実確認をして折り返し電話をする」と言われたが、何日も連絡が来なかったためB氏が電話をかけると、クーリングオフ期間を過ぎたので返品はできないと言われ、この一件はうやむやにされた。
Y社に対して不信感を持ちつつも、B氏は前払い済みの施術は受け続けるべくクリニックに通ったが薄毛は改善せず、1年が過ぎる頃、カウンセラーのC氏から増毛かカツラを着けないかと勧められるようになった。カツラに抵抗があったB氏は拒否したが、「直射日光を防ぐ効果がある」「増毛やカツラによって頭皮を乾燥から防ぎ、発毛効果も上がる」などと説明を受け、数千本の増毛を試してみることにした。
増毛は、自毛に数本の人工毛を結びつけるタイプで、自毛が伸びてきたときには、それを根元まで下げることができるとの説明を受けていたが、数カ月後にさらに増毛を勧められた際、今ある人工毛を根元まで下げるように頼んだところ、「一度結びつけたら動かせない」と、当初と異なる説明があった。「事前にC氏からは、そう説明を受けた」と抗議したB氏だが、当のC氏はすでに退社しており、事実確認が取れないなどとしてB氏の主張にはほとんど耳を傾けられなかった。しかし、一度増毛を始めたB氏は、なかなかやめる決意ができず、毎回数千本ずつ増毛を続けている。ちなみに、現在B氏がY社で組んでいるローン残高は200万円を超えているという。
A氏の例も、B氏の例も、男性のコンプレックスに付け込んだ商売といえるだろう。なかなか強く言い出せない心理を巧妙について高額商品を売りつけている。しかし、不安をあおって契約を迫ることは違法行為であり、虚偽説明で物品販売をしていたことが事実であれば、詐欺罪も成立することになる。
A氏、B氏ともに個室での会話は録音してあるといい、今後のX社とY社の対応いかんでは、国民生活センターか警察へ相談することも検討したいと語っている。
エステティックサロンで強引な勧誘を受けるなどのトラブルが続出した際、消費者保護を目的とした法整備などが進んだが、育毛・増毛関連の業界では、まだ深くまでメスが入っていない実態が浮き彫りになった。
(文=平沼健/ジャーナリスト)