●悪質なクレーマーが急増
また、本部の契約主義の裏には、コンビニ業界ならではの悩みが透けて見える。大手コンビニチェーン本部の社員は次のように明かす。
「店舗でのオペレーションを細かくマニュアル化するのは、どんな場所でも均一のサービスを提供するためですが、同時にクレーム対策でもあるのです。お客様からのクレームは、ここ10年ぐらいで特にひどくなった印象があります。『お弁当を温めてもらったら、中に入っているポテトサラダまで熱くなった。どうしてくれるか』といった、言いがかりのようなクレームが毎日のように寄せられます。以前はお金目当てのケースが多かったですが、最近は『私の言っていることが何より正しい』といった正義を振りかざす人が多いです。インターネットで自身の主張を発信するだけならまだましで、搬入しているメーカーに『あんなところに商品を卸したら、あなたの会社の評判が下がりますよ』といった電話やメールをするケースもあります。本部としては、こういったクレーム対応に時間を取られてしまっているのです」
取引先に連絡を入れられるのは企業にとって死活問題で、もはや営業妨害といっても過言ではなさそうだ。過熱する消費者からのクレームについて、別のコンビニオーナーは実体験から、本部に従うことが得策だという。
「20年くらい前までは、廃棄処分の食品を一般ごみとして出していました。しかし、それをホームレスの人があさって食べてしまうのです。それだけなら大した問題ではないのですが、しばらくして近隣住民から『私たちはお金を出して買っているのに、ホームレスにはタダで食べさせるとはどういうことか。この地域にホームレスが増えて治安が悪くなったら御社の責任です』といったクレームが本部に殺到したそうです。おそらく、本当に治安の悪化を憂いているのではなくて、『タダ食いなんてずるい』という感情から来る行動でしょう。オーナーの裁量が増えるということは、そんな消費者を1人で相手にしなければならなくなるわけですから、本部の指示に従っていたほうが無難で間違いないのです」
コンビニ店員が店外のごみ箱付近を頻繁に掃除している姿を見かけるが、それもクレームから始まったものだという。弁当などの食べ残しをホームレスが拾って食べてしまうため、店側がすぐに処理しなければならないのだ。物議を醸した竹内氏の行動からは、コンビニのオーナーという立場、そして本部との関係性には独特の苦悩があることが透けて見えてくる。
(文=編集部)