特発性拡張型心筋症は「特発性」との文言からもわかるように、心筋が伸び切ってしまう原因不明の疾患で、心臓の機能が十分に果たせなくなってしまいます。女の子は補助人工心臓をつけていました。補助人工心臓が血栓をつくってしまい、その血栓が脳に移動して脳血管に詰まってしまったのです。
実は、女の子に装着されていた補助人工心臓は大人用のもので、子供が使用する場合は血栓ができやすいと指摘されていたのです。「小児用がないのだから仕方がない」と考えがちですが、世界にはすでに小児用の補助人工心臓があり、使用例もあるのです。
小児用の補助人工心臓はドイツのベルリンハート社製で、「血栓もできにくいため、海外では1990年代からすでに1500例以上も使われています」と、心臓の専門医は話します。
第一線の現場で「小児用の補助人工心臓を使いたい」との声は以前より挙がっており、日本では3年前から治験が始まっていたのです。結果は良好とあって、この夏にも認可されるところまで来ています。ただ、要望が強いことを受け、4月1日から臨床試験を行う医療機関は条件が緩和され、小児用人工補助心臓が使えるようになりました。小児用人工補助心臓使用の道が開けたとはいえ、あまりに対応が遅すぎるのではないでしょうか。
目の前に心臓移植が決まっている子がいるのに、安全が担保できない大人用の補助人工心臓を使い、治験中の小児用を使えなかったのは、なぜでしょうか。
日本は、医療では世界の先進国です。特に、がんの手術等ではナンバー1と評価されています。その国が、このような対応をするのは許されないように思います。補助人工心臓を必要とする小児は、毎年15人ほどいるそうです。その子たちの命を保証するためにも、あまりに遅いデバイスラグ(医療機器の承認が遅れること)は、すぐにも解決していく必要があります。
(文=松井宏夫/医学ジャーナリスト)