その後、朝日新聞でアンチHPVワクチン報道をリードするのは斎藤智子記者だ。これまでに24本の記事を書いている。論調は以下の通りである。
・14年4月9日『(記者有論)子宮頸がんワクチン 国の推奨再開、納得できぬ』
日本の異様な議論を受け、WHOの諮問機関であるワクチン安全性委員会(GACVS)は13年12月にHPVワクチンの安全性に関する見解を出した。ところが、朝日新聞はこのような国際機関の動きを無視した。斎藤記者が自らの記事の中でWHOの声明に触れたのは2回だけだ。15年6月14日になって『接種後の痛み、未来に陰 子宮頸がんワクチン、推奨中断2年』という長い記事の末尾に「世界保健機関(WHO)は日本の状況を踏まえたうえで、ワクチン接種を推奨している」と申し訳程度に書いている。
CDCやEMAの見解には一回も言及していない。これが真っ当な報道といえるだろうか。
マスコミがこのような偏向報道を臆面もなく垂れ流す限り、まともな議論はできない。メディアが自ら、HPVワクチンに関する報道を総括すべき時期にきているのではないか。
日本政府の対応を批判
世界は、日本の状況をあざ笑っている。15年12月17日、前出のGACVSは次のように日本政府の対応を批判した。
HPVワクチン騒動は、マスコミの「過失」から始まった。繰り返すが、これは問題ではない。当時、誰もワクチンの被害などわからなかったからだ。さらに、メディアが患者に寄り添うのは「正しい」と思う。
問題は、世界中でHPVワクチンの研究が進んだのに、そのことは一切報道せず、自分の信じていることを報じ続けたマスコミの姿勢だ。「誤報」となるのを恐れたのだろうか。これでは、従軍慰安婦報道から何も学んでいないことになる。
朝日新聞などのメディア報道のために、本来、他に原因があるはずの少女たちが犠牲になっている。「何が何でもHPVワクチンのせいにしたい」大人の都合で無意味な闘争に巻き込まれているからだ。
すでにHPVワクチンに関する世界のコンセンサスは確立された。朝日新聞は、そろそろ「反省」したらどうだろうか。これ以上やると「故意犯」になる。
(文=上昌広/東京大学医科学研究所特任教授)