現在通院している個人医院でなかなか症状が改善しないと、「別の医者に変えたい」と思う方は多いのではないだろうか。また、医者に不信感を抱いたときも、そう思う方は多いだろう。
では、こういう場合はどうすればよいのか。多くの方は、黙ってほかの病院に行くはずだが、症状が重かったり、個人医院では処置できない疾患の場合は、現在かかっている医院の医者に大病院宛の「紹介状」を書いてもらうことになる。
ところが、この紹介状を渋る、あるいは断る医者がいる。悪質なのは、「うちではあなたの病気の処置は設備がないのでできない。大病院に行ってください」と言うにもかかわらず、「紹介状をお願いします」と言うと、「厚かましい」と断る医者がいることだ。
さらに悪質なのは、慢性疾患で定期的に通っている患者さんに対して、「あなたの病気はうちで十分にケアできます。紹介状を持って大病院に行かれてもやることは同じですよ」などと言う医者がいることだ。たとえば、軽度の糖尿病や高血圧などは小さな病院でも診られる。また、こうした患者さんは病院にとってみればリピーター患者なので、収入源として他に行かれると困るので引き止めようとするのだ。
筆者は病院経営をしていたことがあるので、「患者を離さない」というのが病院経営のイロハであることを知っている。しかし、そう申し出る患者さんに対しては、プライマリーケアの原則からして、「紹介状を書いてあげてもっとよい専門医のところに行ってもらおう、そのほうが患者さんのためだ」というのが、医者のあるべき姿だと思っている。そうしないで引き止めていると、何かあったときは大変なことになるからだ。
ところが、こんな意見もある。
「医者に限らず、自分が面倒をみているお客さんが同業他者のところへ行くというのを喜ぶ人間はいません。とくに不信感からそう言われたら、誰でも嫌がります。その場合、紹介状を書くということは自分を否定されることになる」
これは正しい意見だろうか。
医療は患者さんのためにあるのであって、医者のためにあるわけでない。また、医者というのは、その見識、キャリア、技術、人格など、個々人みな違うのだから、患者はそのなかから自分に合った医者を選べる権利を持っているはずだ。
したがって、どんなケースでも遠慮せず、堂々と紹介状を書いてもらうことを申し出るべきである。その場合、紹介先が決まっていなくとも構わない。
紹介状を書くのは診療行為
医者が書く紹介状というのは、一般的な意味での単なる「紹介状」ではない。正確には、「診療情報提供書」と呼ばれるもので、医者がほかの医者へ患者を紹介する際に発行する書類のことで、患者さんの症状や診断・治療など、これまでの診療の総括と紹介の目的などを記載するものだ。
医者が紹介状を作成する場合、次の2つのケースがある。
(1)患者が依頼したとき
(2)医師が他の病院で診てもらったほうが適切だと判断したとき
つまり、医者が紹介状を断る理由はないのだ。しかも、紹介状を書くということはひとつの診療行為であり、医者には1枚につきしかるべき診療報酬の収益が入る。患者はその費用を負担することになっている。親切で書くわけではないのだ。
そもそも、紹介状を渋る、書かないという医者は、患者を「金ヅル」としか思っていないか、プライドばかりが高いか、あるいは世間知らずの引きこもり医者が多い。
ただ、患者をお客として捉えている医者のなかにも、親切で話をよく聞いてくれる医者もいる。患者は「私の先生はいいお医者さん」と思うわけだが、それが表面的なポーズだったりすることもあるので、見分けるのは難しい。
ただ、紹介状を積極的に書いていてくれる医者ほど、いい医者であることは間違いないだろう。筆者も医者なので、各方面から頼まれて年間数多くの紹介状を書く。その場合、その病院で受けた検査、たとえば、内視鏡検査、心電図、血液検査のデータなどを一緒に出してもらうことを勧めている。
(文=富家孝/医師、ラ・クイリマ代表取締役)