出産年齢の女性では、母乳を分析する検査がマンモグラフィーに代わる日が来る可能性があると、新たな予備的研究で示唆された。母乳を用いて乳がんの徴候を調べる新たな技術が開発され、有望な結果が得られたという。
今回の研究は、米シカゴで4月22~26日に開催された米国生化学・分子生物学会(ASBMB)年次集会で発表された。学会発表された研究結果は通常、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。
若い日本人女性に多い高濃度乳房
研究筆頭著者である米クラークソン大学(ニューヨーク州ポツダム)の Roshanak Aslebagh氏は、「乳がんの女性では、乳がんでない女性と比較して、母乳におけるタンパク質の発現に変化がみられることを突き止めた。これらのタンパク質が乳がんのバイオマーカーとなる可能性がある」と述べている。
今回の結果は、さらに研究を重ねて裏付けをとる必要があるが、これまでの研究でも同様の知見が得られているとAslebagh氏は話している。
乳がん検診はマンモだけではなぜ不十分なのか。実は日本人などアジア人の若い女性に多い高濃度乳房(デンスブレスト)が、マンモの検査では不十分な状態をつくり出しているため、有効な乳がんスクリーニング法が求められているのだ。
マンモでは乳腺は白く、脂肪は黒く写る。ところがデンスブレストの人は乳腺が多いため、写真は全体的に白が多い写真となってしまう。しかし、がんも白く写るため、デンスブレストの場合には病巣が乳腺で隠れて見えない可能性があるのだ。
通常は年齢と共に乳腺は脂肪に変化していくので、年を重ねるとデンスブレストではなくなっていくことが多い。自分の乳房のタイプがデンスブレストなのかをよく知っておく必要がある。
デンスブレストといわれた場合は、マンモのみではなく超音波(エコー)検査も併用したほうが、より精度の高い検診ができるといわれている。では、エコーだけではいけないのだろうか。たとえば、石灰化といわれるタイプの病変は、エコーでは見つけることが困難だ。このため、マンモとエコーの併用が推奨されてきた。
一般的に、乳がんの多くは上皮細胞から発生するが、母乳の検査では乳腺組織の上皮細胞を採取することができるため、早期発見の可能性も高くなる。乳がんは40歳未満で発症すると悪性度が高い場合があるため、早期発見がさらに重要になると同氏は指摘する。
がんのある乳房から採取した母乳には化学的な違い
今回の研究では、24~38歳の女性8人から、母乳検体10件を採取した。検体のうち5件は乳がんのある乳房から採取し、5件は正常な乳房から採取した。被験者のうち2人は自分自身の「対照」として、正常な側とがんのある側のそれぞれの乳房から検体を提供した。
その結果、がんのある乳房から採取した母乳には複数の化学的差異が認められた。今回の結果が裏付けられれば、乳がんを早期に発見するだけでなく、乳がんリスクを予測する手段にもなる可能性があると、Aslebagh氏は述べている。
米ノースダコタ大学病理学准教授のKurt Zhang氏は、この結果は意外なものではないと話す。同氏は以前の研究で、乳がんの家族歴によって母乳中に産生されるタンパク質を予測できることを報告している。
「がんの発症により体液中のタンパク質の組成は変化する。例えば、われわれは乳頭吸引液(NAF)中にみられる(がんの)タンパク質バイオマーカーをいくつか特定している。残る疑問は、どのくらい早い段階でそれを特定できるかということである」と、同氏は述べている。
NAFとは、乳頭を吸引して採取できる分泌液のこと。乳房内にはほんの少量の分泌物が貯留しているため、乳房を温め、マッサージを行い、乳頭を吸引することでNAFを採取できる。
多くの乳がんは、このNAFを分泌している乳管上皮細胞から発生することが知られており、NAFの中には乳がんの存在や、乳がん罹患の危険性を示す物質が含まれていることが期待されているのだ。
マンモにエコー、そして新たに母乳やNAFを調べることで、乳がん早期発見の可能性が高まってきた。
(文=ヘルスプレス編集部)