ゲノム研究に基づく、個別化医療の発展は凄まじい。6月末、厚生労働省はがんに関する複数の遺伝子を一括で調べる「パネル検査」(パネルシークエンス)について、2018年度中に公的保険適用を目指す方針を固めた(「週刊ダイヤモンド」<ダイヤモンド社/7月15日号>より)。この検査が普及すれば、多くのがん患者が正確に診断され、適切な治療を受けるようになる。副作用を減らし、より高い効果が期待できるようになるだろう。
今後、がん治療における抗がん剤が果たす役割はますます大きくなる。ゲノム研究の発展と同様、抗がん剤開発の進歩も目覚ましい。従来型の抗がん剤は腫瘍も正常組織も区別せずに攻撃していたのに対し、近年開発される抗がん剤の多くは、腫瘍細胞に発現される特定の分子を標的として攻撃する。このため、副作用は軽く、より多くの効果が期待できる。
その嚆矢は、2001年5月に米国で承認された慢性骨髄性白血病の治療薬であるイマチニブだ。日本でも01年11月にスピード承認され、患者の運命を変えた。この薬が登場するまでは、骨髄移植以外に完治する方法がなく、平均の生存期間は約5年だったが、イマチニブを服用すれば、ほとんどの患者が10年以上の長期にわたって生存できるようになった。この薬は飲み薬で、「飲み続けている限り、病気はコントロールできる時代がきた」という血液内科の専門家もいる。
その後、イマチニブほど劇的ではないにせよ、他のがんに対しても、このような分子標的治療薬が開発された。最近は免疫細胞に対する分子標的治療薬であるオプジーボも登場し、がん治療のパラダイムが変わろうとしている。
今後、このような方向でがん医療が進むのは間違いない。その場合の問題は、治療を受ける前に腫瘍細胞の遺伝子や発現しているたんぱく質を評価しなければならなくなることだ。どうすれば、安価で迅速にできるか、世界がしのぎを削っているが、実はすでに結論は出ている。それは冒頭にご紹介したパネルシークエンスではない。全ゲノム、あるいは全エクソンシークエンスだ。本稿では、両者について説明したい。
「オールジャパン」
パネルシークエンスでは、あらかじめ100程度の遺伝子を選択し、その変異だけを解析する。この方法は、国立がん研究センター(国がん)と東京大学がタッグを組んで推進している。