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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

“不健康な”女性アスリート…身体を蝕む貧血問題、無月経・摂食障害・骨粗鬆症の苦しみ

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

 これには、いくつかの理由が考えられる。最大の理由は、日本は「痩せているほうが美しい」と考え、ダイエットに励む若年女性が多いことだ。

 実は、日本は世界でもっとも痩せが多い国だ。日本人女性におけるBody Mass Index(BMI)が18.5以下の痩せの割合は12%。15~30歳の若年女性に限れば20%だ。これは食糧難に悩むアフリカ諸国と変わらないレベルだ。先進国は通常3-6%程度で、日本は突出している。

 この状況は悪化の一途をたどっている。日本人女性は、戦後一貫して痩せ続けている。それは栄養摂取が不足しているからだ。2017年の厚労省の国民健康・栄養調査によれば、20代女性の摂取エネルギーは1694キロカロリーで、1946年の都市部住民の1696キロカロリーより少ない。

 1946年といえば、連合軍最高司令部(GHQ)が日本人を餓死させないためにガリオア資金を創立し、食糧を緊急輸入した年だ。これで十分量の鉄を摂取できているはずがない。我が国は「貧血大国」なのだ。これは、日本女性の美観に根ざしており、一朝一夕で出来上がったものではない。

過剰なダイエットによる健康被害

 女性アスリートが置かれた状況は、さらに深刻だ。それは、女性アスリートとしてのボディイメージの問題があるからだ。サッカーやボディビルなどを除き、女性アスリートは体重増を避けることが多い。体操、フィギュアスケートのような審美的な採点種目、レスリングや柔道のような体重別階級種目、長距離走などが、その代表だ。痩せているほうが綺麗に見えると評価されるし、体重別階級競技では階級を下げるほど勝ちやすい。長距離走はいうまでもない。

 私は学生時代に剣道をやっていた。現在も「月刊剣道時代」(体育とスポーツ出版社)という専門誌で連載をしている。剣道関係者との交流も多い。体重と競技成績があまり関係しないように見える剣道ですら、「昔と比べると、日本代表クラスの女性剣士の体型は随分とスリムになってきている」(中島郁子・新潟医療福祉大学助教、剣道6段)。

 これは、わが国に限った話ではない。世界共通の傾向だ。2016年に米ノーステキサス大学の医師が発表した研究では、半数以上が体重を減らしたいと回答し、75%がダイエットしていた。彼女たちは勝利を目指して過剰なダイエットを行うこともある。ときに心身を病む。無月経、骨粗鬆症、さらに摂食障害などが、その代表だ。その頻度は、読者が想像するよりはるかに高い。

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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