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オタクドクター“Dr.Chem”の「医療ニュース、オタク斬り!」

ゲームで医者の手術が上手くなる? WHOと仮面ライダーがともに「ゲーム病」を問題に

文=Dr.Chem
ゲームで医者の手術が上手くなる? WHOと仮面ライダーがともに「ゲーム病」を問題にの画像1「Getty Images」より

 はじめまして。Dr.Chemと申します。

 普段はしがない病院勤務の身でありますが、その一方、幼少期よりマンガ、アニメ、ゲーム、特撮とさまざまなオタク文化にどっぷりとつかって過ごしてきた、言い逃れの余地なきヲタでございます。特にこだわりなく、その時々のはやりモノに節操なく飛びついておりますが、それぞれ素晴らしい作品を世に送り出してくれるクリエイターのみなさま方に感謝しつつ、作品を楽しみながら、医師としての日々の仕事に立ち向かう心の糧とさせていただいております。

 というわけでこのコーナーでは、仕事として専門にしている医療の知識でもって、普段楽しんでいる作品をちょっと違った視点で見てみよう、と思っています。

 さて、新元号「令和」への改元のお祭り騒ぎも落ち着いてまいりましたこの5月末、こんなニュースが飛び込んできました。

『ゲーム依存症は病気、WHOが認定 要治療の精神疾患に』(2019年5月26日配信、朝日新聞の記事より)

 これは、この5月25日、世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類」(ICD)の最新改訂版(ICD-11)にて疾患として定義されていた「ゲーム依存症」またの名を「ゲーム病」がこのたび、WHOの総会にて正式に採択されたというもの。実際の施行は2022年1月だそうです。

 実は、すでに昨年2018年6月の時点でこの「ゲーム依存症」がICD-11の分類に載ること自体は発表されており、それを踏まえて今年1月には、日本国内におけるこの疾患の実態調査に厚生労働省が乗り出すこともリリースされ、一部では話題となっておりました。

 この「ゲーム病」、英語では「Gaming disorder」と表記され、「物質使用症(障害)群または嗜癖行動症(障害)群」及び「衝動制御症群」と同じカテゴリーに属しています。同じカテゴリーに含まれているのは「ギャンブル症(障害)」。要するに、ゲームにハマり過ぎて生活に支障をきたす状態をひとつの病気、病態として定義したものなわけです。

WHO “gaming disorder” サイト(英語)はこちら

 しかし、オタクとして、「ゲーム病」という単語を目にすると、真っ先に想起してしまうものがございます。「平成仮面ライダー」シリーズの第18作目として平成28年(2016年)~平成29年(2017年)にかけて放映されていた、『仮面ライダーエグゼイド』です。

ゲームで医者の手術が上手くなる? WHOと仮面ライダーがともに「ゲーム病」を問題にの画像2『仮面ライダーエグゼイド Blu-ray COLLECTION 1』(販売は東映)

「医療」がテーマだった『仮面ライダーエグゼイド』

「平成仮面ライダー」シリーズは、平成12年(2000年)の『仮面ライダークウガ』を皮切りに、毎週日曜朝8時、現在は9時(一部地域により例外あり)から放送されております。途中、放送開始時期の変更や時間の変更を挟みながらも、毎年新作が途切れることなく続いており、現在(2019年5月)放送中の『仮面ライダージオウ』で20作目。ちょうど平成30年(2018年)末にシリーズを総括する大作映画『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』が公開され、人気を博したのも記憶に新しいところです。

 で、上に挙げた“平成ライダー”第18作の『仮面ライダーエグゼイド』は、毎年ガラッとデザインが変わる平成ライダーシリーズのなかでもひときわ奇抜なキャラデザインに加え、「医療」と「ゲーム」という一見すると大きく異なるモチーフを組み合わせた意欲的な作品でした。

 しかもこの作品、実はただのヒーロー番組の枠には収まりきれないレベルでがっつり「医療監修」が入っており、架空の病気を扱うシーンでも、それによる怪我や病態、そして治療シーンの描写などは、下手な医療ドラマよりもよほど現実に即したものになっておりました。

 その劇場版にして完結版でもあった『トゥルー・エンディング』(2017年8月公開)では、現実の難病(脳腫瘍)に苦しむ子どもの治療についても焦点を当て、手術着の着方や手術室での所作までみっちり指導を受けた俳優たちによる手術シーン、そして医療に対する姿勢のあり方にも踏み込んだ描写がなされました。主人公、宝生永夢(ほうじょう・えむ)によるセリフ「子どもの命を、子どもの笑顔を守るのは、僕たち大人の義務じゃないか!」というセリフには、医療者として胸を熱くさせられたことを記憶しております。

 そして、この『仮面ライダーエグゼイド』においてライダーたちが立ち向かうのが、まさしく「ゲーム病」なのです。

『エグゼイド』内のゲーム病よりも厄介な、現実世界のゲーム病

 とはいえ、作中での「ゲーム病」とは、バグスターと呼ばれるコンピューターウイルスがゲームを介して人間に感染することで発症し、感染した人間の体をバグスターユニオンという怪物に変貌させてしまうという架空の病気。テレビシリーズ終了後に、本編の集大成として発行された小説版(講談社キャラクター文庫『小説 仮面ライダーエグゼイド』)でも、主人公のバックグラウンドにかかわる大きな仕掛けとして、ノベルゲーム「マイティノベルX」を介した「ゲーム病」が登場しています。

 このバグスターウイルスの起源については、ひょっとすると『エグゼイド』本編をご覧になったことがない方も、作中屈指の人気キャラである檀黎斗(だん・くろと)による以下の名セリフ、

「宝生永夢ゥ! なぜ君が適合手術を受けずにエグゼイドに変身できたのか、
 なぜガシャットを生み出せたのか、
 なぜ変身後に頭が痛むのか!
 その答えはただ一つ… あはぁ…
 宝生永夢ゥ! 君が世界で初めて… バグスターウイルスに感染した男だからだぁ!!」
(『仮面ライダーエグゼイド』本編第18話『暴かれしtruth!』より)

 で、ご存じの方もおいでかもしれません。

 このシーンは、主題歌を背景に流しながらの次回への引きの中、ストーリーの大きな謎であったバグスターウイルスの正体が判明するという盛り上がりどころだったことに、檀黎斗を演じられた岩永徹也氏の怪演というべきインパクトのある演技も相まって、当時はあちこちでコピペされ、オタク界隈に広まっておりました。

 しかし現実の「ゲーム病」は、こうしたフィクションの「ゲーム病」よりもシンプルでありながら、より厄介なものであります。

 あらためて、WHOが採択したICD-11を見てみると、「ゲーム症」は以下のように定義されています。

ゲーム症(障害)は、オンラインまたはオフラインのゲームに対する行動パターンによって定義づけられる。

・ゲームをすることに対するコントロールがきかなくなる
・ゲームの優先順位が他の生活や日常の営みよりも優先される
・生活面での状況が悪化してもゲームのプレーが持続、またはエスカレートする

 ゲーム症(障害)と診断するためには、通常少なくとも12カ月の間にわたって生活、家庭、社会、学業・職業または他の重要な機能に支障を及ぼす状態が続いていることが明らかである必要がある。
(以上、WHOの公式サイトより引用、訳文は筆者)

 幼い頃からゲームのやりすぎで親に怒られたり、目が悪くなると言われたり、学生時代に試験前だというのに現実逃避のゲームから離れられないといった経験を持つ私としては、他人ごとでは済まされません……。

ゲームで医者の手術が上手くなる? WHOと仮面ライダーがともに「ゲーム病」を問題にの画像3「Getty Images」より

ゲームで外科手術が上手くなる?

 歴史的には、特にオンラインゲームの登場後、ゲーム環境から離れられなくなってしまうプレーヤーが登場していることは社会的にも問題になってきていました。精神科領域における病気の診断・分類に用いられるものに、アメリカ精神医学会が発行する「DSM」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、「精神疾患の診断・統計マニュアル」)というものがありますが、その第5版である「DSM-5」において、WHOの「ゲーム病」の定義に先立つこと5年、2013年の時点ですでに、「インターネットゲーム障害」が定義されています。

 しかし、ゲームは決して人を不幸にするために生まれたものではありません。『仮面ライダーエグゼイド』においても、小児科、外科、放射線科と多くの診療科の医師が仮面ライダーに変身し、チーム医療でゲーム病を克服していきました。

 現在は「e-スポーツ」という概念も普及し、ゲームが単なるいち娯楽にとどまらず、生き方・職業としても成立するようにさえなってきています。だからこそ、ゲームプレーヤーの健康と、ゲーム業界そのものの健全な発達とが共に守られることの重要性も、増してきました。多くのスポーツで、身体運動の最適化や怪我の予防など、医学がスポーツの発達と普及に貢献してきたように、ゲームに対しても、最適なプレーの追求やプレーヤーの負担軽減などに、医学が貢献できる道筋が開かれていくことでしょう。

 一方の医療の側においても、治療技術の発達に伴い、内視鏡や腹腔鏡・胸腔鏡、さらにはロボット機器による手術といった狭い視野での精密作業が求められるようになるにつれ、ゲームの腕前を磨くことが医療技術の向上につながる可能性も示唆されています。実際に、ゲームがうまいことが手術の技術に関係することを示唆した論文まであるほどです。

The effects of video games on laparoscopic simulator skills. (American Journal of Surgery 2014; 208: 151-6)
(論文へのリンクはこちら

 これは、ゲームと腹腔鏡下手術の技術の関連についての報告を調べた論文で、ゲームプレーが手術の技術向上に関係することや、実際の手術前のウォーミングアップとして有用である可能性までもが示されています。

 誰もが適切な距離感でゲームを楽しみ、そして幸福に続けていけるよう、医学の領域からも力になれることがないか、考えていく必要がありそうです。ひいてはそれが、医学そのものの発展にも貢献していくこととなるのではないでしょうか。

Dr.Chem

Dr.Chem

ファーストガンダムと同じくらいの時期に生まれた、都内某病院勤務の現役医師。担当科は内科、オタク分野の担当科はアニメ、ゲームなど主に2次元方面。今回取り上げた『腸よ鼻よ』では、ちょいちょいいろんな分野からのパロディネタが挟み込まれていますが、特に作者が筋肉フェチなこともあってか、格闘マンガ、特に『バキ』ネタが多いです。ちょうどNetflixで『バキ』大擂台賽編が放送中にて、合わせて楽しんでます。

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