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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

今の社会は「M&A」と「株式会社」のおかげで回っている…その誕生秘話と超基礎知識

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

 会社に値段をつけるということは、会社の株式に値段をつけるということです。会社を買うということは、会社の株式を買うということです。M&Aとはその会社の株式をある特定の相手に売ることであり、株式の上場とは、会社の株式を小口にばらして証券市場で不特定多数の投資家に売ることです。つまり、上場したということは、会社は売られたということになるのです。ですから有名な上場企業に勤めている人は、自分の会社はいつでも誰でも買うことができる状態に、理屈上はなっていることを知っておくべきでしょう。

 株式会社は世界最大の発明のひとつであり、資本主義の根幹をなすものです。なぜそういえるのか、少し歴史を振り返ってみることにします。

株式会社とは?

 いつの世も、大きな仕事をしたい、世の中を変えるような新しいものを生み出したいという野心家が存在します。このような人たちは業を起こす人、「起業家」と呼ばれます。起業家が目標を実現するには資金が必要です。しかし、自分の手持ちのお金だけではたいしたことができません。そこでお金持ちに頼んでお金を出してもらいます。しかし、出してもらう時の約束が借金だと、もし事業が失敗したとしても契約上は必ず返さなければなりません。失敗したら自宅も親類縁者の財産も全部処分しなければならないと考えると、そう簡単には大きな事業は起こせません。

 そこで考え出されたのが株式会社です。皆さんも歴史の授業で「オランダ東インド会社」という名前を聞いたことがあると思いますが、1602年に設立されたこの会社が、世界初の株式会社だとされています。

 大航海時代の莫大な資金調達は実質的に借金で賄われていました。たとえばコロンブスは最初の航海に必要なお金のほとんどを、スペイン国王・フェルナンド二世から借りています。スペインにとって成功した時のリターンは大きいですが、失敗した時のリスクも同様に大きい。また一回の航海ごとの出資契約ではリターンの振れ幅が大きすぎます。

 そこで、一回の航海ごとに出資契約を結ぶのではなく、永続的に存続させることを前提にオランダで東インド会社が生まれました。莫大な必要資金を小口に分割し、株式と交換するかたちで資金を集めました。この株式を持つ人、つまり株主は、会社の経営に参加でき、事業が成功した場合はその利益の配分にあずかる権利を持つことができます。加えて、株主の有限責任制を導入しました。つまり株主は、出資額以上のリスクは負わないということです。

 こうして、起業家やお金持ちはリスクの高い事業にも取り組むことができるようになり、オランダ東インド会社は大きな発展を遂げました。ちなみに当時の東インドとは、インダス川より東側すべての地域を指していました。設立当初は銀を輸出して胡椒・香辛料を調達し、のちには砂糖、綿織物、コーヒー、茶などを輸入しました。ちなみに長崎・出島のオランダ商館は、オランダ東インド会社の日本支店のことでした。

 さて、このオランダ東インド会社は200年続いたものの、1799年に解散してしまいましたが、株式会社というシステムは世の中で広く利用されるようになっていきます。そのうち株式会社自身が、資本金を元手にお金を借りることができるようになり、これにより、資本金の何倍ものお金を借金し、より大きな事業ができるようになりました。

株式市場の誕生

 また、小口の株式を売買できる仕組みも徐々に整っていきました。最初は起業家の心意気を買ってダメもとで出資したとしても、その後にいろいろと状況が変わってやっぱりお金を返してほしいと言いたくなるときもあります。しかし、株式は、最悪紙くずになることを承知してもらったうえで出資者から集めたお金ですから、会社としては二つ返事でお金を返すわけにはいきません。銀行も食いつぶしても構わないお金があることが前提で、貸してくれています。

 ですから、株式を現金に換えたい出資者は、その株式を買ってくれる人を探さなければなりません。その会社のビジネスに魅力を感じる別のお金持ちが現れたら、値段が折り合えば売買が成立します。このように売りたい人と買いたい人の数がある程度の規模になり、かつ株式の売り買いが可能な会社の数が増えてくれば、取引市場が成り立ちます。

 このようにして、株式市場ができ上がったというわけです。株式市場では、誰がどの会社の株式をいくらで何株売りたいかが掲示され、買いたい人は手を挙げればその値段で買えるようになっています。

 この株式会社の仕組みと株式市場が整ったことで、お金がない人でもアイデアと決断力があれば大きな事業が起こせるようになりました。現在では、この仕組みが社会を革新する新たな事業を生み出していく源となっています。そして、我々が銀行から受け取る金利も、年金として受け取るお金も、ずっと元をたどると株式会社が生み出した利益によって賄われているのです。

 私たちの暮らしは、MAによって支えられていると言っても過言ではありません。

(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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