風俗店が違法なスカウトを利用→税務調査で税漏れ指摘!「正しく納税」主張し追徴課税を回避!
元国税局職員、さんきゅう倉田です。風俗店の調査で、積極的に見るところは「履歴書」です。
所得税法の通達には、「その収入の起因となった行為が、適法であるかどうかを問わない」とあります。平たくいえば、「犯罪で得た収益も、税金がかかりますよ」という意味です。犯罪を容認するわけではないけれど、所得があれば、正しいお仕事で得た収入と同じように、平等に課税されるようになっています。
たとえば、風俗やキャバクラのスカウト行為。都道府県の迷惑防止条例によって、スカウトは禁止されています。それでも、スカウトを行っている人はたくさんいて、彼らには一定の金員が支払われています。
スカウトする人は所得税の申告が必要ですし、スカウト料を支払った事業者は、その代金を損金に算入できます。今回は、大阪で複数の風俗店を経営する法人に税務調査が入り、スカウト料を否認された事例を紹介します。
Aさんは、大阪市内で風俗店をいくつか営んでいます。店舗ごとに法人を設立し、それぞれ別の人物を代表取締役にしていました。
ひとつの法人で複数の店舗を営業すると、仮にひとつの店舗が違法の認定を受けた場合に、他店舗も営業停止になってしまうため、店舗ごとに法人を設立するのだそうです。そして、代表取締役を実質経営者と別にするのは、税金の世界では所得の分散を図るためと考えることもあるのですが、実際には警察対応のリスクを回避するために行われているようです。
Aさんは“実質の”オーナーですから、税務調査の際には表に出る必要があります。傀儡の代表取締役には任せておけません。税法や会計の知識があり、売上と損金すべてを把握しているオーナーが対応しなければ、不測の否認が行われる可能性があります。
スカウト担当者の存在が確認できず……
Aさんが実際に税務調査に立ち会うと、5年間で5億円ほど計上していたスカウト担当者への支払いを、架空外注費だと指摘されました。Aさんにとっては寝耳に水です。毎月、しっかりと支払って領収証も保管していたからです。
調査担当者は、こう指摘しました。
「毎月、50人ほどのスカウト担当者にスカウト料名目で支払っているようですが、複数名の名前と住所を調べたところ、どれも存在しないものでした。現金払いで、ほかに記録はありません。スカウト担当者なんて、本当はいないんじゃないですか?」
確かに、1カ月分の支払いを毎月10日に現金で支払っていて、領収証以外に証拠がありません。スカウト行為は違法なので、偽名や偽の住所を書いている可能性は高いでしょう。契約書もなく、身分証明書を確認したこともありません。証拠を示せと言われても、その場で見せられるものがありませんでした。
A 「実際に支払っています。スカウト担当者がいなかったら、うちの女の子はどこからやってきたんですか。ホームページやTwitterから応募してきたとでも言うんですか。もちろん、そういう子もいますが、それはごく一部で、ほとんどがスカウトなんですよ。スカウト担当者がいなければ、女の子を集めることはできないんです」
調査担当者 「では、証拠を示してください。スカウト担当者がいるという客観的な事実を示してください」
A 「毎月10日に、前月のスカウト料を取りに来るので、それを見ていてください。後を追って住所や名前を確認するなり、声をかけて本人に聞くなりしてください。うちは支払った金額だけを、損金として計上しています。こういう業界ですが、申告と納税は正しく行っているつもりです」
Aさんがそう言うと、調査担当者は「わかりました」とだけ言って帰っていきました。しかし翌月10日、調査担当者は現れず、後日のまとめではスカウト料が否認されることはありませんでした。
風俗経営者が脱漏を企てることは、統計的にはよくあります。ただ、そのすべてがそのような意志のもとで経営を行っているわけではありません。司法と税務行政を分けて考え、違法なスカウト担当者を雇っても、納税は正しく行う。そうすることで、事業を拡大していく。それが、現代の風俗店経営のようです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)