介護離職、年間10万人で社会問題に…会社側の「間違った説明」が原因の場合も
制度はあるというものの
従業員が介護離職をする理由のひとつには、こうした制度が制定されているにもかかわらず、経営者や人事関係者が介護休業や介護休暇などの制度に明るくないことも考えられるのではないか。
実際、筆者が大企業から中小企業までさまざまな企業規模の経営者や人事労務管理関係者に聞いてみたところ、「介護は従業員のプライベート問題。企業には関係ない。がたがた言い出す従業員は辞めさせればいい」と真顔で答えた経営者もいたほどだ。実は、ここに大きな誤解が存在している。
介護休業制度・事業継承分野の労務問題に詳しい社会保険労務士の荒久美子氏は、次のように指摘する。
「介護休業や介護休暇は法律で定められている。これらの休業・休暇を労働者に与えるのは事業主の“義務”となる。“義務”であるため介護休業制度や介護休暇制度を就業規則に規定していない、または就業規則を作成していないからといってこれらの制度が利用できないわけではない」
企業側の誤解はほかにも挙げられる。介護休業や介護休暇の被介護者(介護を受ける人)として認められるのは、従業員の両親だけではない。配偶者(内縁の妻などの「事実婚」を含む)、および配偶者の両親、子、祖父母や兄弟姉妹、孫も対象(祖父母・兄弟姉妹・孫については、現状では“労働者が同居しかつ扶養している”という条件が必要)となることだ
残念ながら、介護を受ける人の範囲を熟知している企業関係者ばかりではない。こんな実例がある。配偶者の両親の介護休暇を申し出たにもかかわらず、人事労務担当者から「本人の両親が対象で、配偶者の両親の介護による休暇は認められない」と、間違った説明をされた。「介護のためには辞めるしかないのか」と思いあぐね、辞表を提出する寸前に、ふと思い立って制度を調べて間違いに気づき、辞めずに済んだのだ。
この人のように自らアクションを起こす人ばかりではないはずだ。仮に間違った説明を受け、それを鵜呑みにしていたとしたら、どうなっていただろう。簡単に取り返しのつかない事態に陥ってしまうどころか、経済的損失だけでなく、精神的なダメージも計りしれない。
多くの人は介護保険制度や介護休業制度、介護休暇制度に詳しくはない。そんななかでいざ介護となると、介護保険の手続きや親族の連絡などで忙殺され、心身ともに疲れ切ってしまうのが現状だ。冷静な判断ができなくなってしまうのも無理からぬ話だ。
そんな介護初期段階のためにあるのが介護休業だ。