元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな税理士は「OB税理士」です。
ぼくは、たくさんの税理士の方とお会いします。「税理士」と一口に言っても、税理士になるまでの過程には違いがあります。大きく分けると、税理士試験に合格した「試験組」、国税局に23年勤めて税理士試験を免除された「OB税理士」、税理士として登録することができる「公認会計士」の3種類があります。弁護士も税理士として登録できますが、実際に税理士業務をされている弁護士の方はまれなので、割愛します。
みなさんが出会う税理士は、この3種類のいずれかだと思いますが、それぞれ税務調査の対応にも差があります。
OB税理士が、現役時代に税務調査を担当した人であれば、調査のやり方や正しい対応に精通し、調査担当者との交渉もスムーズです。調査担当者が経験の少ない若い職員だったり、年配のやる気のない職員だったりすれば、圧倒的な力でねじ伏せてくれるかもしれません。
しかし、現役時代に税務調査を担当していないOB税理士もいます。最低限の知識はありますが、前述の方と比べると見劣りするかもしれません。もちろ、その分、別のことに長けている可能性はあります。たとえば、差し押さえや判例、届出書類に詳しい方もいますし、税務署に顔が利く方もいます。
試験組の税理士の方は、個人差がより大きいように思います。税務調査の経験が多いのか少ないのかはわかりませんが、税務署の調査が多い方もいれば、国税局の調査に頻繁に立ち会う方もいます。単独で事務所を開いている公認会計士の方は、税理士業務を始めたてであれば、調査の能力はほとんどないといってよいかもしれません。
以前、税務調査中に、パソコンをずっといじっているだけの公認会計士と会ったことがあります。忙しいふりをして質問されないように努め、それでも質問がきたら「調べます」とパソコンをカタカタ叩いて時間を稼いでいました。その調査では、社長がんばって調査担当者をねじ伏せ、大きな否認事項は出ずに済みました。調査に協力的か非協力的かも税理士によって異なります。
調査担当者をねじ伏せるOB税理士
OB税理士の場合、その多くが非協力的とはいわないまでも、基本的には調査担当者に優しくないように思います。特に、定年退職でなく途中退職したOBは、税務署や国税局の悪口を発信することもあり、組織に対してネガティブな気持ちがあるようです。先日、広島国税局を退職して、OB税理士となった先生に話を聞く機会がありました。
その先生は、現役の頃は資産課税を担当していたそうです。資産課税部門は、贈与税と相続税の税務調査を行います。
贈与税は生きている人からお金やモノをもらったときにかかる税金、相続税は亡くなった人からお金やモノをもらったときにかかる税金です。どちらも、相続税法が根拠となります。
相続税の調査事績を見ると、調査で申告漏れが見つかる割合は、80%を超えています。法人税では約75%なので、相続税のほうが「ミス」や「見解の違い」がやや多いようです。ミスや見解の違いがあれば修正申告をすることになりますが、お話を聞いた先生は、ほとんど修正申告をすることがないそうです。「甘い調査なら、認めないよ」と言っていました。
論拠がなく、証拠書類も揃えられないなら、指摘された否認事項を認めることはないし、新人だからと優しくするようなこともないそうです。
地方であれば、調査担当者も限られていますし、役職で経験年数が概ねわかります。職員の10年間の部署を把握できる書籍も販売されています。
それらを合わせれば、どのレベルの職員が来るのかは予めわかるし、たとえ昔の上司が来ても、自分の能力なら問題ないとのことでした。調査担当者の気持ちがわかるはずなのに、反対側に回れば全力で対抗する。その覚悟がある方が、定年前に退職し税理士になるのでしょう。
自分を育ててくれた組織の方には、礼節を持って対応したいものです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)