こんなに損を出すなんて!
先日、公的年金の資産を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2015年度の損失が約4兆7000億円に上るとの数字を、民進党が党独自の試算として公表しました。この報道を見て、「年金運用は失敗した」「消えた年金の二の舞だ」といった具合に騒いでいる人たちがいますが、はっきりいってこれはかなり的外れなコメントです。
15年度の年金運用について実際の結果はまだ出ていませんが、損失が出ていることは恐らくそのとおりでしょう。民進党の試算が正しいかどうかはわかりませんが、市場の状況から見て5兆円近い損失が出ていたとしても不思議ではありません。
ところが、前年の14年度はどうだったかといえば、約15兆円の利益が出ています。年金の運用というのは非常に長期にわたるものですし、運用対象も国内外の株式や債券に分散投資をしているわけですから、当然資産全体は増えたり減ったりします。これは運用途中における評価益であり、評価損ということです。利益が出ているからといって「成功した!」と喜ぶこともありませんし、損失が出ているから「失敗した!」と決めつけることもないのです。
公的年金はどうやって運用されているのか?
現在、公的年金の積立金残高は昨年末現在で、139兆8,249億円あります。その運用の内訳ですが、図のようになっています。
運用比率が最も高いのは国内債券で約37%、次いで国内株式と外国株式が約23%ずつ、外国債券が約13%程度という構成になっています。最近、運用改革ということで内外の株式比率を高めてきている中で年初からの株価の下げが影響して、現時点では評価損になっているということでしょう。
GPIFの運用は、その時々の相場観で機敏に株の売買をやっているというよりも、運用方針を決めて一定の割合の資産比率を決めたら、その割合を維持するという方向で運用されています。ですから、国内株式が大きく上がるとその分を売却して比率が減少した他の資産を買い付ける、といったいわゆる“リバランス”を定期的にやっています。なんら恣意的に運用しているわけではありません。
06年に国内株式が大幅に上昇した時に、民放の某ニュースキャスターが「こんなに株式が上向いている時に株式を売るなんて、国の年金はどうかしてますよねえ」とコメントしていました。その同じキャスターは08年のリーマンショック後にGPIFが株式を買い増しした時、「こんなに株が下がっているのに危険な株に投資するなんて、私たちの年金は大丈夫でしょうか?」とコメントしました。なんのことはない、これはGPIFが機械的にリバランスしているだけなのです。