元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな勘定科目は「売掛金」です。
日々、たくさんの人と出会います。打ち合わせや交流会、講演会の打ち上げ、そういった場面で人と話すと終始、税金の話になります。ぼくは税金の話が好きですし、常に情報を欲しているので、それで満足しています。一方、相手はどうかというと、疑問に思っていることを聞きたいから、そういう話題を振っているのだと思います。
これが難しい。税理士法上、税理士でないものが、税金に関して個人の相談に答えることはできません。しかし、話を無視するわけにはいかないし、違和感なく話題を変えることもできない。
そうすると、相手に好きなだけ話してもらって、「わからないですね」とか「そういうこともあるんですね」と相槌を打つにとどめるのが最善です。「うちの親が亡くなる前に贈与をしたいんですが、110万円以内だったらいいんですかね?」などと聞かれても、「いい、というのは、どういう意味ですか?」などとニーズを掘り下げることなく、「相続のことはみなさん気にされてますよね」と言って間を開けると、向こうが勝手に次の話を始めてくれることもあります。
そんななかで、何も質問や相談をすることなく、自分の税務調査体験を語ってくれる人がいます。これがもっともぼくにとって効用が高いのです。話は面白く、情報として価値があり、何も答えなくてよい、素敵なテーマです。「実は、前の会社で税務調査が入りましてね。それが……」なんて言われると、目が輝いてしまいます。
今回は、そうやって集めた話のなかで、調査担当者の“迷言”をご紹介します。
「背中、見ますか?」
超有名な大手のインターネット広告の会社を退職してイラストレーターとなったAさんは、フリーランスとなって6年目に初めて税務調査を受けました。
杜撰な領収証の管理の結果、400万円ほどの申告漏れを指摘され、納税することになりました。Aさんがもっとも驚いたのは、その調査の結果ではなく、雑談中に発せられた調査担当者の20代女性の一言でした。
「昔、調査で700万円くらい追徴したんですよ。そしたら、その1週間後、電車に乗っているときに、後ろから硫酸かけられちゃって。だから、背中が酷くただれてるんです。見ますか?」
それが怖くて、Aさんは質問にうまく答えられなかったそうです。
えいちゃんみたいに
法人の代表取締役のBさんは、役員である妻とよく食事に行っていました。通常、夫婦で飲食した支払いが経費として認められることはありませんが、友人でもあり取引先でもある人物と夫婦で食事をしたときは、法人の経費にしていました。
税務調査の際、上席国税調査官に「そのような経費は認められない」と言われたため、「法律的根拠を示さないなら、そちらに譲歩していただくしかありません、こちらは修正申告には応じませんよ」と譲りませんでした。話が進まず、困った上席国税調査官が言ったそうです。
「俺はいいけど、上席はなんていうかな?」
ちなみにロック歌手の矢沢永吉さんは、頼んでいたものを用意できなかったとスタッフから言われたときに、「俺はいいけど、矢沢はなんて言うかな?」とおっしゃったそうです。
「あんたは税金払ってないだろ」
税務調査を受けた売れない漫画家のCさんは、20代前半の調査担当者の態度に強い不快感を持ちました。調査では否認事項が多々見つかり、確かに自分にも悪い部分はありましたが、我慢を続けるのは精神衛生上悪いと考え、最後に「お前の態度はなんだ? 誰の金で飯が食えてると思ってるんだ? 俺たちの払った税金じゃないか」と叫んだそうです。すると、ぐうの音も出ないことを言われてしまいました。
「あんたは税金払ってないだろ」
調査担当者には、良い人もいれば、悪い人もいます。人格者もいれば、社会不適合者もいます。ただ、みんな仕事熱心で、薄給でもがんばっています。調査には、積極的に協力していただきたいと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)