10億円の遺産をめぐって骨肉の争い…愛人のベトナム人の息子や内縁の妻に意外な配分
元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな本の書き出しは「ひろい うみの どこかに、社長の きょうだいたちが、たのしく くらしてた。みんな あかいのに、1社だけは からすがいよりも まっくろ」です。
相続税は、数年前の基礎控除の減額によって申告の対象者が増加しました。相続税といえば、お金持ちの税金というイメージがありましたが、都内に家を持っていれば、すぐに基礎控除を超えてしまいます。中所得者も対象となったことで、より身近な税目となりました。
相続は「その99.9%が“争続”となる」といわわるように、争いの元であると考えられています。アメリカの人気テレビドラマ『フルハウス』のように、仲の良かった家族が財産の分割割合で揉めて関係を悪くしたと聞いても驚きません。
みんな、なんの苦労もなしに大金が得られるとわかれば、自分は少しでも多く得たい、そして他者に得をさせたくないと思うものなのかもしれません。
父親の愛人と愛人の子と内縁の妻と自分
僕の知人に、父親が亡くなって10億円ほどの財産を相続することになった人がいました。彼以外にも相続人がいて、それが仲の良い家族どころか赤の他人だったので、大きな悶着となりました。
父は、ある地方都市で電子機器の卸を行っていました。彼自身も、専務取締役として父親を支え、会社の発展に寄与していたと思います。
彼が幼い頃に両親は離婚しており、母はいませんでした。父は自宅以外にいくつか家があり、曜日によって帰る家を変えていたようです。
大往生で父が亡くなってすぐ、弁護士から遺言書を見せられました。そこには、彼と弟、そして、フィリピンパブで知り合ったベトナム人との間にできた子に相続させる旨が書いてありました。
どうして、彼が父と共に繁栄させた会社を源泉とする父の財産を、愛人との子に分けなければいけないのか理解ができませんでした。しかし、遺言書がなくとも、非嫡出子も嫡出子と同等の相続割合になると弁護士から聞くと、父はすべてをわかった上で、遺言書に書いたのだと気づきました。彼が憤慨すること、弁護士から説明があること、自らの民法の認識について彼が疑問を抱くことも、想定していたのでしょう。
少し残念なのは、父の内縁の妻に対する記述が一切なかったことです。内縁の妻なので、法定相続分はありません。彼が成人して独立してからは、父を私生活面で支えたのは彼女です。彼も何度か食事を共にしましたが、父にはもったいないくらいの善人でした。
彼女の今後の生活のことを考えると、相続財産がないことは、あまりにも酷に感じました。弁護士に相談すると、遺言書に記載がなくても相続人が合意すれば、彼女にも財産を分与することができると聞きました。そこでベトナム人に会い、相談することにしました。話し始めると、彼女は烈火のごとく怒りました。
愛人「ドウシテ、アタシノ金、シラナイ女ニヤル?アタシノ金ダヨ!ソレヨリ、アンタ、相続財産少ナスギル!モット探セ!」
弁護士「財産はあれですべてです。それに、あなたのお金じゃなくて、あなたのご子息のお金ですよ」
愛人「アタシノ子ドモノ金ハ、アタシノ金ダヨ!アタシガ働イテ育テテルンダヨ!アンタガ金隠シテナイカ、税務署デ聞イテクルヨ!」
合意は得られず、内縁の妻には今後、法人の役員として、役員給与を支払うことにしました。また、相続財産が多額だったためか、1年後に税務調査が行われました。調査担当者に聞くと、ベトナム人女性が「もっと財産を隠しているはずだから調査をして見つけてほしい」と、税務署で訴えたそうです。
調査では、税理士の先生も把握していない金銭のやりとりが見つかり、修正申告をするはめになってしまいました。
相続で揉めても不思議ではありません。亡くなった方の意図はわかりませんが、愛する内縁の妻のために、遺言書に名前を記載してもよかったように思います。みなさんも財産の額を確認し、基礎控除を超えていれば、遺言書の準備を検討してもいいかもしれません。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)