コロナ禍もあって、在宅勤務が増え、毎日出勤する必要がなくなった人が増加したため、リーズナブルな価格でマンションを購入できる東京圏の郊外や地方にマンションを求める人が増えています。東京圏の郊外や地方で買うなら、どの府県の価格が安く、将来の資産価値上昇が期待できるのでしょうか。
中古マンションなら新築の6割で手に入る
マンション価格の高騰が叫ばれ、「マンションが買えなくなった」「賃貸住まいでガマンするしかないか」と購入を諦める人が増えているといわれます。けれど、多少苦労しても若いうちに買っておかないと、年配になったらいよいよ買えなくなります。そうなると、老後も持家がなく、リタイア後も高い家賃を負担しなければなりません。年金生活では家賃を支払えなくなり、ホームレスになりかねません。若いうちに、何とかマイホームを手に入れておきたいものです。
たしかに新築マンションは高すぎますが、中古マンションなら新築より割安感があって、多少なりとも買いやすくなります。図表1にあるように、2022年度の首都圏の新築マンションの平均価格は6907万円に対して、中古マンションの成約価格の平均は4343万円です。中古なら新築の62.9%で手に入れることができます。
郊外や地方への移住者が増える傾向に
しかも、ひとくちに中古マンションといっても地域によって価格は大きく異なります。東京圏などの大都市圏では高くてなかなか簡単には購入できませんが、地域を選べば、リーズナブルな価格帯で手に入れることができる都道府県もあります。幸い、コロナ禍の影響もあって、在宅ワークが可能な会社が増えていて、東京圏でも価格帯の安い郊外や、思い切って地方にマンションを求めて移住する人が増えています。在宅勤務を中心とする会社では、地方への移住者に対して、たまに出社するときには新幹線代や飛行機代を会社が負担してくれるケースもあります。そんな制度がなくても、出社が月に1回か2回程度であれば、自己負担しても住宅価格や物価の安い地方に住んだほうがトータルでみて得策になることもあるのではないでしょうか。特に生活への影響が大きいマンション価格については、都道府県による格差が大きいので、地方なら格段に生活にゆとりができるケースが多くなるのではないでしょうか。
山梨県は東京都の7分の1以下で買える
実際、どれくらいの違いがあるのでしょうか。図表2は、マンション情報サイトの「マンションレビュー」を運営するワンノブアカインドが、全国の中古マンションの70平方メートル換算価格を調査、都道府県別にランキング化したグラフです。最も高いのは東京都の5859万円で、2位は滋賀県の3462万円、3位が神奈川県の3381万円など、やはり東京圏や大阪圏の都県が上位に挙がっています。
でも、下位のほうをみると、最も安い山梨県は814万円と、東京都の7分の1以下の価格になっています。2番目に安い新潟県は1160万円で、3番目の香川県は1182万円です。山梨県は東京都に隣接していますから、東京の都心にある会社に出社する場合でも、JR中央線の特急で甲府駅から新宿駅まで1時間30分ほどで、東京駅も1時間40分ほど。電車賃も特急券込みで4000円弱です。それでいて、東京都の7分の1以下の価格で中古マンションを手に入れることができれば、大きなメリットではないでしょうか。
https://www.mansion-review.jp/pressrelease/detail/?id=96
新幹線代を負担しても新潟に住むのが得策?
価格が安い2位の新潟県も東京と上越新幹線で直結しているので、そんなに負担はありません。新幹線なら新潟駅から東京駅までは約2時間で、電車賃も乗車券・特急券の合計で1万円ほどです。月1、2回東京に出社する費用を自己負担しても、安くマンションを取得でき、ローン負担が格段に少なくなるので、損得計算すればむしろ新潟県に移住するほうが得策になるのではないでしょうか。
図表2にあるように、東京都で5859万円の中古マンションを5000万円のローンを組んで買うとすれば、金利0.375%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は12万7049円ですが、新潟県の1160万円のマンションを1000万円のローンで買うとすれば、同じローンの条件だと毎月2万5409円ですみます。たまに通勤費用を負担するにしても、十分にお釣りがくるのではないでしょうか。
福井県のマンションは10年で7割アップ
地方の都道府県だと、東京圏や大阪圏のように購入後の資産価値の上昇が期待しにくいと考える人が多いかしれませんが、地域によっては、むしろ東京圏や大阪圏より上昇率が高いところもあります。先のワンノブアカインドでは、70平方メートル換算価格のランキングとともに、10年前の価格と比較した騰落率(上昇率)のランキングも作成しています。
その結果が図表3ですが、最も10年騰落率が高いのは東京都の69.5%ですが、2位には福井県が69.1%で続いています。10年前に買っていれば、2023年には7割近く資産価値が高まっていることになります。3位は大阪府、4位は滋賀県、5位が京都府などと東京圏、大阪圏の都府県が続いていますが、6位には石川県が入り、7位は北海道です。場所を選べば、東京圏や大阪圏並み、あるいはそれ以上に資産価値が高まっているエリアがあるということです。
https://www.mansion-review.jp/pressrelease/detail/?id=96
北陸新幹線開業で一段の価格アップも?
10年騰落率2位の福井県は、2024年3月に北陸新幹線の開業が予定されていて、全国的に注目度が高まっています。福井駅周辺では再開発が盛んに行われ、駅前には県内最高の約120mのホテルの建設が進められています。駅から徒歩4分の場所では、鉄筋コンクリート造28階建て、総戸数118戸の超高層マンションの建設も進んでいます。また、当面の終着点となる敦賀駅では、新幹線の駅としては建物の高さ日本一の駅舎が建設されています。それに先立って、隣接地に商業・公共などが入る複合施設がオープン、飲食店・土産店などもあって賑わいをみせるようになっています。
こうした影響から、福井市や敦賀市では地価やマンション価格が上がっており、実際に新幹線が開業する2023年3月には、もう一段の上昇もあるのではないかといわれています。この敦賀までの延伸に先立って、2015年には長野・金沢間が開業し、石川県の注目度が高まり、地価やマンション価格が上昇しました。2023年度の敦賀までの延伸によって、再度脚光を浴びることになるのではないでしょうか。それが石川県のマンション価格高騰につながっているとみられます。
山形県では10年前に比べて2割近い下落
とはいえ、地域選びを間違うと、資産価値が低下する可能性がないとはいえないので注意が必要です。先の10年騰落率の図表3にあるように、山形県は-19.8%で、山梨県は-4.7%となっています。山形県で10年前にマンションを買った場合、2割近く資産価値が低下してしまったことになります。山形県では、2020年1月に山形市中心部にあった地元老舗百貨店が経営破綻、閉店によって、当時として全国都道府県で唯一の百貨店なしの県になりました。日常の買い物は郊外のショッピングセンターに、高額品の買い物は仙台市の百貨店まで出かける人が増え、中心市街地の活気が失われ、その周辺などに多く存在するマンション価格も低下してしまったわけです。
10年騰落率がワースト2の山梨県は、東京都に隣接していながら、平均価格が全国一安く、騰落率も低い水準にとどまっています。東京に近すぎることが仇になっているのかもしれません。いずれにしても、東京の郊外や地方にマンションを求めるに当たっては、現在の価格水準とともに、騰落率にみる今後の資産価値上昇の可能性とのバランスを考慮、どこに拠点を定めるのがいいか慎重に検討したいところです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)