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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

ライフネット生命、コロナ下でも新契約急増で株価一時3倍に…小さい組織のスピード経営

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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ライフネット生命の森亮介社長

 新型コロナウイルス感染拡大で業績悪化に悩む企業が多いなか、株価が一時、約3倍(2020年8月末時点)に急上昇している企業がある。ライフネット生命保険だ。コロナ禍を受けネットビジネスにシフトチェンジして苦戦を強いられている企業や個人事業主も多いが、対人販売が当然と言われた保険業界において、オンラインで保険を提供するというノウハウを12年間、蓄積した同社に注目が集まっている。

 業績も好調だ。2020年度第1四半期、保有契約年換算保険料は164億6100万円(対前年度末比106.1%)、新契約年換算保険料11億6600万円(前年同期比141.9%)、新契約件数は2万8136件(前年同期比147.2%)となり、四半期決算としては同社の過去最高を達成した。

 こうした好調な業績や株価上昇は、オンライン生保として培ったノウハウが時代にマッチしたという偶然なのか、それとも新たな秘策を打ち出した結果なのか。前回に引き続き、同社代表取締役社長の森亮介氏に迫った(以下、敬称略)。

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改善スピードの重視

――業績向上の要因にスマホのウェブサイトの変革を挙げていますが、ほかに業績アップのためにどのような施策を行いましたか。

森 ようやく広告も積極的に展開できるようになりました。実は業績が振るわなかったときは、集客プロモーションが積極的にできなかったのです。いくら積極的に広告を出したいと思っても、快適さを感じないウェブサイトは覗き見だけで終わってしまいます。それは当社でも経験済みです。広告とウェブサイトのコンテンツをセットで考え、お客様にとっての快適さ、手続きのスムーズさを追求していくことは不可欠なのです。

 今はテレビCM以外に、YouTubeなどオンラインの動画広告も出しており、ウェブサイトに訪問されるお客様も一定数いらっしゃいます。広告以外では、ネットワーク効果を見据え、KDDIグループやセブン&アイグループとも提携しました。

――コロナ自粛以降、ネットショッピングを利用する人が増えていますが、オンライン生保でも何か環境の変化はありましたか。

森 私が入社したのは2012年ですが、当時のネット環境と比較し、今では仮説検証のサイクルが加速していると感じています。大手のインターネットサービス企業でも2週間ぐらいでマイナーアップデートを完了するといわれています。当社では以前、スマホ用のウェブサイトのアップデートに数カ月要していましたが、今ではサイクルをより短くしました。

――大手のインターネットサービスには人材や資金があるからできると思ってしまいます。

森 「ヒトもお金もないからできない」という悩みは非常に理解できます。ただ、変化に対応するサイクルを速めないと、ネットビジネスで生き残っていけないと思います。特に保険会社はその使命上、保障をお届けし続けていくために会社の存続は必須です。また、オンライン生保といえども保険業法や保険法など各種法律を遵守するのは他社とまったく同じです。当社は人材も限られていますし、さまざまなハードルが立ちはだかりましたが、スピードアップを果たすことができました。

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ライフネット生命の社内

――どうやって実現することができたのですか。

森 当社でも改善スピードが重要だという認識が高まったことです。例えば、システムを担当する部署はお客様に直接かかわる部署ではありません。技術的にパーフェクトなものをつくり上げれば、普通は何の問題もないはずです。しかし、お客様にとってよりよいものを、より早く届けたいという思いを持って取り組んでくれたことが大きかったですね。当社のシステム部門だけがそう思っているのではなく、全社員が同じ気持ちでいます。

社員が自主的に新入社員のメンターに

――業績アップの鍵はそのあたりにもありそうですね。どんな社内改革を行うと、社員一丸となって、そう思えるようになるのですか。

森 当社の社員自慢をするようで恐縮ですが、社員たちは本当の意味でのエキスパートなのだと思います。こちらがあえて言わなくても、「お客様が主人公でいてくださるために100%最高のものをご提供したい。そのためにはベクトルを一致させること」で、自分はどうあるべきか、どうすべきか、ということを理解しているのです。

――コンサートライブスタッフみたいですね。最初からそうした優秀な社員しか採用しないのですか。

森 採用にはこだわりを持っていますので、社員には恵まれていると思います。最近、コロナでの外出自粛期間中に驚いた出来事がありました。コロナによる外出自粛で、当社もテレワークを積極導入しました。4月に新卒の新入社員が2名入社しましたが、時節柄、テレワークで研修を行い、その後もテレワークで業務を行ったり、会議に参加してもらっています。出社機会が少ないことを申し訳なく思って、私から連絡を取ったところ、「まったく気にしていません。これまでいろんな社員の方から『困っていない?』『大丈夫?』と何度も連絡をいただいています」と言われて、リモートでの研修や業務を普通にこなしていることに、私自身が驚きました。

――新入社員への配慮を全社員に呼びかけたことは?

森 いいえ。世の中的には仕事で悩んだらいろんな方に相談しろ、師匠のような存在のメンターを3~5人持つようにと言われますが、社員が自主的にメンターになってくれていることを知り、感謝しています。

若い社員から感じた成長の可能性

――森社長と社員の方の距離が近いことも大きいように思います。コロナ自粛後、コミュニケーションが希薄になった、取りづらいとの声も少なくありませんが、社員とのコミュニケーションの取り方に何か工夫をされていますか。

森 経営者としてのスタンスはコロナ自粛前も今も、社員との距離感は大きくは変わっていません。会社としては、コロナ自粛で社員が自宅などで仕事をするようになり、光熱費などの個人出費が増えたことを受け、少しばかりですが全社員に手当を出しました。

――そこは惜しんではいけないと?

森 絶対惜しんではいけないと思います。実情を明かすと、感染防止対策のためにパーテーションなどを揃えたことで、会社としての出費は増えました。ですが、お客様に快適さを提供するには社員が快適ではなくてはならないというのが、私をはじめ経営陣の信念です。会社でも自宅でも仕事に打ち込んでもらえる環境を整えるのが経営者の仕事です。

――強制的なテレワーク下で、これまで気がつかなかった社員の特徴に気がついたようなことはありますか。

森 主に20代の若い社員から新鮮な学びがありました。電話やウェブ会議で人と話しているときに、発言がかぶったり、逆に沈黙が起こったりする経験をされたことはありませんか? でも若い社員たちには一切ないんですね。不思議に思って調べてみたら、「若い社員たちはオンラインゲームやグループチャットに慣れているから、どのタイミングで話をすればいいのか、共通のリズム感覚が無意識にわかっている」といわれています。私は36歳でまだ社会では若輩者のつもりでいましたし、オンライン生保の経営者です。それなのに、若い世代の感覚を理解できていないおじさんになってしまっていることに、ものすごい衝撃を受けました。テレワークもポジティブに捉えてくれる彼らの発想の切り替えや楽観性に触れ、当社のさらなる可能性を感じて嬉しかったですね。

――今後の貴社の取り組みについて教えてください。

森 お申し込みからお支払いまで、お客様に快適さとスムーズさをご提供するために、これからも妥協なく、挑み続けることに変わりはありません。当社は数年もの間、新契約の業績が伸び悩んだ時期があり、本当に苦しい時期を経験しました。乗り越えられたのは、当社を信頼してご加入いただいた契約者の存在と、多くの方にアドバイスやお力をいただいたお陰です。

 個人的にも、コロナ自粛でオンライン化の流れが5年ぐらい一気に進んだのではないかと思います。誰もが経験したことのないビジネスの未来が始まっています。当社の経験やビジネスを必要とする企業などがいらっしゃれば、お役に立てることができれば一緒にやっていきたいと考えています。それが支えてくださった方々へのご恩返しにもなりますし、お客様により高品質のサービスをご提供することだと思っています。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

森亮介(もり・りょうすけ)

愛知県出身。2006年京都大学法学部卒業。2007年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。投資銀行部門にてM&Aや資金調達の財務アドバイザリー業務に従事。 2012年ライフネット生命保険株式会社入社。2016年執行役員、2017年取締役を経て、2018年6月に岩瀬大輔の後任として代表取締役社長に就任。36歳。

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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