東京五輪後、家は値下がりして買いやすくなる…バブル崩壊で「私たち」は何も困らない
金融機関というところは、まったく懲りない性分のようだ。彼らの基本的性質は、とにかく集まってきた金はなんとしてでも貸さなければならないところにある。そこでもっとも効率が良く、しかも貸し出した結果が相当「後」にならないと判明しない不動産に対する融資が最も「お気に入り」になるのだ。
「効率が良い」とは、不動産はなんといっても「嵩が張る」ので同じように申請書を書いて融資を行うにあたっても、一度に多額の貸し出しができてノルマを達成しやすいということだ。
「貸し出した結果の判明が遅い」点についてはどうか。銀行員の多くは2年から3年で他部署や他支店に人事異動になる。たとえ貸し出したお金が焦げ付いたとしてもそれは数年先の話で、異動後には「知らぬ存ぜぬ」を決め込める不動産という素材は、彼らにとってはまことに都合のよい代物なのだ。
「バブル崩壊」は困ったことではない
さて、この不動産業界の好景気はいつまで続くのだろうか。モルヒネ効果もおそらく東京五輪前には効き目が薄くなりそうだ。需要がないところに政策的に多くの不動産をこしらえても、結局客の奪い合いとなることは火を見るよりもあきらかだからだ。
今現在、都心部で槌音が鳴り響いている巨大オフィスビルが続々竣工し始める来年後半くらいからオフィスビルはテナントの奪い合いが始まるだろう。今建設されているビルの多くが、もともと老朽化したビルを、容積率アップを利用して巨大ビルに建て替えているにすぎない。すなわち老朽化ビルに居たテナントが追い出されて、空室のあるビルに移転した結果として空室率が改善しただけ、というのが現在オフィスの空室率が低い大きな要因である。すべてのビルの建て替えが完了すれば、当然テナントの奪い合いは激化し、空室率は上昇し、賃料は下がる方向へと向かうだろう。
また、東京をはじめとした都市部郊外では、戦中世代から団塊世代にかけての高齢者に相続が多発するようになる。2022年からは生産緑地制度の期限到来が始まり、高齢となり事業承継が困難となった都市農地の一部が宅地化の選択をして、賃貸マンションやアパートを建設または土地売却に走ることも予想される。意味するところは都市部においても今後地価はかなり下がるだろうという当然すぎる結論へと向かうのだ。
宴はそろそろ終焉に向かっているのだ。ところが、国や政府は地価が下がらないように生産緑地制度については10年の延長制度のみならず、賃貸に拠出しても宅地並み課税を防げるように制度改正を考えているし、東京における一極集中の是正を唱える一方で、得意の国家戦略特区を設定し、国際金融都市を目指してさまざまな制度上の優遇措置を設けてその優位性を保とうとしている。
つまり、地価が下がるとこれまで不動産を支えていた投資家マネーは一気に逃げ足を速めてしまうし、需要の見極めもろくすっぽせずに貸し込んでしまったアパートやマンションの債権が焦げ付くことを極端に恐れているとしかいいようがないのだ。
本当はこれから家を買おうとする、事業を立ち上げてオフィスを借りようとするような若い世代の人たちには、不動産の価格は低いほうが、固定費が削減できてハッピーなはずである。これではまるで既得権益を守るために無理やり地価の水準を保ち、いい加減な投資をしてきたプレーヤーを守ろうとしているようにも映る。
しかし、平成バブル時以上に、やがてくるナイアガラの滝は誰からも同情されないだろう。結局欲の皮が突っ張った人たちが勝手に死ぬだけなのだから。地価が下がって一番困るのは、実は不動産を担保にとっているから大丈夫としか思っていない金融機関なのだ。需要と供給を見極め、顧客マーケティングを正しく行うことがビジネスの基本原則であることは、古今東西変わりはないのに、なぜか不動産になると人々の判断能力は鈍ってしまうものらしい。
むしろ東京五輪後の世界は、家は買いやすく、借りやすくなり、オフィスの賃料もリーズナブルになる。このことは消費者にとって薔薇色の未来が控えているということなのかもしれない。一部メディアのいう「バブル崩壊」も意外と困ったことではない。そんな未来になってほしいものだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)