年初より堅調な展開を示し、2月には念願の日経平均株価3万円台を達成した東京株式市場だが、そこを頂点にして、以降は三寒四温ならぬ四寒三温の推移になった。そして8月後半には年初来安値更新と、いわゆる「行って来い」になり、3万円は再び厚い壁になりつつある。
伴って昨年来の株高を予想できなかった証券関係者や識者からは、潮目の変化や宴の終わりを指摘する声も聞かれ始めた。なるほど、亜種のデルタ型ウイルスの急激な感染拡大、インフレの加速を懸念する米国金融当局の政策転換、そして与党苦戦が伝えられる秋の国政選挙と、現状は株価の支援材料よりも懸念要因が勝っている印象だ。
なかでも差し迫ったものは、今秋までに実施される衆議院選挙であろう。
前哨戦と位置づけられた国会議員補選や再選挙、政令指定都市の首長選で、与党公認・推薦候補は敗北を重ねている。ウイルスの封じ込めに失敗するとともに、弛緩した与党議員の行状や首相の訴求力への有権者の不信、不満も相俟って内閣支持率はつるべ落とし。総選挙で与党が壊滅的な敗北を喫すれば、何より先行きの予測が困難な状況を嫌う株式市場が大荒れになることは必至と考えるのが、一般的な認識であろう。
ただ先例を調べると、異なる解釈が浮かんで来る。衆院選の結果が株式市場に与える影響は、実は限定的なのだ。今世紀に入ってから実施された過去6回の衆院選の結果と、選挙直後及び1カ月後の日経平均株価終値を対比すると、上昇したケースは2回、下降したケースは4回になる。騰落率も、各年を累計した年間平均変動率が約4割であることを考えれば、欧州経済危機による不況のボトムアウトに重なる2012年を除けば際立った変動とはいいがたい。
サンプルとした6回のなかには、与野党逆転によって民主党が政権を奪取した2009年、これを自民党が奪還した2012年の総選挙が含まれている。憲政史上に残るような劇的な結果が生じたにもかかわらず、市場は特筆するような動きを示していないわけだ。
「精度が高くなっているマスコミの世論調査を受けて、選挙結果を株式市場は事前にほとんど織り込んでしまう」(証券関係者)
ヘッジ取引を手の内に入れる
もっとも目先の懸念材料が案外張り子であったとしても、右肩上がりを期待できる局面とはいえない。一昨年のコロナショック後の上昇相場は、早期の収拾を想定した楽観シナリオによるものが大きいためだ。過剰流動性の下支えは続くものの、執拗なウイルスの跳梁が頭を押さえ続ける。キャピタルゲインを望む投資家には退屈な綱引き相場は長引くのではないか。
上放れも深押しも想定しづらい局面で、一考に値するのは、ヘッジ取引を手の内に入れることかもしれない。手掛けやすいものとしては、自身の保有銘柄のポートフォリオと平均株価や東証株価指数(TOPIX)の変動率を算出して、株式先物の売り建てによって現物株の値下がりを補填する手法であろう。
先年亡くなられたが、普通のサラリーマンながら、定年後に潤沢な金融資産を築いたシニア投資家は、常々言っていたものだ。「嫌な予感がしたら、ヘッジ売りをしておく。そうすれば暴落があっても、気にせずに趣味に専念できる」と。
(文=島野清志/評論家)
○過去の衆議院選挙と平均株価の推移
2017年10月(選挙直後の営業日終値と同1か月後終値の騰落率△3.8%)主な政党の獲得議席(自民284立憲民主55希望50公明29共産12維新11)
2014年12月(同▲0.5%)同(自民291民主73維新41公明35共産21)
2012年12月(同△7.9%)同(自民294民主57維新54公明31みんな18)
2009年8月(同▲3.4%)同(民主308自民119公明21共産9)
2005年9月(同△5.1%)同(自民296民主113公明31共産9)
2003年11月(同▲3.6%)同(自民237民主177公明34共産9)