●年金運用の常識を逸脱
米澤氏が委員長に就任する前のことだったが、GPIFはJPX日経400という今年から算出されるようになった株価指数に連動する運用に資金を投じた。同指数は、ROE(自己資本利益率)の高い銘柄にウェイトのかかった、政府の方針を後押しする指数だが、GPIFの国内株式のベンチマーク(基準)はTOPIX(東証株価指数)であり、JPX日経400に連動する運用は、GPIFにとって明らかに「アクティブ運用」(ベンチマークを上回るためにリスクを取る運用)だ。
つまり、GPIFは実績を調べもせずに、新たなアクティブ運用を採用したことになる。特に株価指数に連動する運用では、株価指数の構成銘柄と投資ウェイトの変更時にリスクがあり、この実績を確認せずにいきなり株価指数連動運用に資金を投入することは、プロの年金運用の常識を大きく逸脱している。これでは、GPIFの運用委員会はまともに機能していないといわざるを得ない。あるいは、運用委員会はまともでも、政治的外圧がこれを無効にしているのかもしれない。いずれにしても、「有識者」が建前通りには機能していないということだ。
なお、筆者はGPIFではないが国家公務員共済組合連合会(運用資産は約8兆円)の運用委員を務めており、実は米澤氏も一緒だ。運用委員は率直にいって薄給(会議一回の出席当たり1万数千円程度)だし、立場上、自分で株式投資などができない制約がある。他では得にくい情報が得られたり、ある種の名誉を感じたりする人がいるかもしれないが、決して「割のいい仕事」でないことを申し上げておく。
公的年金の運用に限らず、「外部の有識者による検討」の利用方法について、抜本的に見直すべきなのではないだろうか。
(文=山崎元/楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表)