なぜ日本は、ドイツとアメリカに劣るのか?長期停滞を招いた、悪すぎるビジネス環境
●日本の成長戦略を検証
こうした中、日本の成長戦略のうち、法人税改革では実効税率を数年内に20%台にすること、企業統治改革では企業統治の指針「コーポレートガバナンス・コード」の策定、機関投資家向けの「スチュワードシップ・コード」の普及促進を挙げている。
人口に関しては、当面の出生率目標として1.8人を掲げている。ただし移民政策には触れていない。女性の就労促進に関しては、学童保育受け入れ枠の拡大などを目指す。女性を対象とする調査によれば、約300万人が育児などでの障害がクリアされれば働きたいとの結果を示しており、潜在的労働力として大きな存在である。
雇用、医療、農業分野での岩盤規制改革のうち、農業の潜在成長性は高いとみられる。企業による農地所有が5年後に解禁され、企業的な農業生産が増えると、農業の生産性の向上が期待される。例えばオランダは九州程度の国土面積だが、ITを駆使した生産性の高い方式により野菜や花を生産し、年間8兆円を輸出している。日本の農業品輸出は、年間5000億円にとどまっている。
エネルギー分野では、高価になりすぎた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の見直しを検討する必要がある。ドイツは脱原発を掲げたが、実際には電力供給を確保しながら徐々に原発を止めている。フランスなど近隣国から電力を購入する体制も整えてある。
観光分野では、年間の来日外国人観光客数を20年までに2000万人とする目標を掲げている。ドイツは年間3000万人である。人口が2.5億人のインドネシアなどからの観光客誘致が、今後期待できる。いずれ中国と人口が逆転するインドも期待できる。現状、インドからの来日客は年間7万人にすぎない。例えば欧州各国が、インド映画の撮影を自国に誘致し、その映画を観たインド人が撮影地を訪ねるため観光客として来訪するという好循環を生み出している点は、日本にも参考になる。
結局、日本もドイツも高齢化し、人件費は高い。移民による労働力確保、または、製造業の高度化が生き残る道といえよう。ドイツは移民労働力を導入した。また、積極的に誘致した対内直接投資の中身は研究開発部門が多い。つまり研究者など高度人材も取り込み、製品開発力を高めた。日本がアジアのドイツになるつもりならば、ある程度の移民の受け入れや、対内直接投資の積極導入を考えるべきではないか。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)