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安部徹也「MBA的ビジネス実践塾」第4回

マック、復活の切り札・宅配市場開拓は至難の業?他業種とも競合で激戦、顧客の攻略…

文=安部徹也
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マック、復活の切り札・宅配市場開拓は至難の業?他業種とも競合で激戦、顧客の攻略…の画像1東京都内のマクドナルドの店舗(「Wikipedia」より/Paul Vlaar)
 メガバンク勤務後、アメリカのビジネススクールでMBAを取得し、今では幅広い企業の戦略立案やマネジメント教育に携わる安部徹也氏が、数多くのビジネス経験やMBA理論に裏打ちされた視点から企業戦略の核心に迫ります。

 業績不振が長引く日本マクドナルドで、原田泳幸氏からバトンを受け取った新CEOのサラ・カサノバ氏は、2期連続で前年割れが続く既存店売上高を、2014年12月期にはプラスに転じさせるという固い決意を述べました。

 その切り札として力を入れるのが宅配事業。現在マクドナルドは1500円以上の注文であれば、宅配料300円で自宅まで届けるサービス「マックデリバリー」を86店舗にて展開していますが、「以前に比べ、日本では宅配のニーズが高まっている」ことから、年末までに130店舗まで増やしていく計画を発表しました。

 あるシンクタンクの調査によれば、12年度に約1兆8000億円の規模であった宅配市場は、17年度には約2兆2000億円へと拡大し、4000億円程度、20%以上の成長が見込まれています。

 マクドナルドもこの成長市場へ本格的に参入し、自社の成長を促そうというもくろみですが、果たしてマクドナルドはこの宅配事業の強化で、本当に既存店の売上を大幅に拡大できるのでしょうか?

 今回はマーケティング分析の手法である3C(Competitor:競合、Customer:顧客、Company:自社)の観点から検証していくことにしましょう。

成長著しいが、激戦が続く宅配市場

 まずは競合(Competitor)の宅配サービスの状況を分析していきます。

 ファストフード業界で宅配を行っているのはマクドナルドだけではなく、モスバーガーやケンタッキーフライドチキンなどもすでに行っています。

 例えば、モスバーガーがお届けサービスを行っている店舗を同社ホームページ上で検索すると、247件の店舗がヒットします。つまり、モスバーガーではすでにマクドナルドの3倍近い店舗が宅配を行っているということになります。しかも、モスバーガーでは店舗によっては1品から注文でき、宅配料は200円になっています。

 同じようにケンタッキーフライドチキンでは「お届けケンタッキー」と称して、すでに83店舗で宅配を展開しており、例えば東京・三田店では1800円以上の注文であれば宅配料200円で自宅まで届けてくれるのです。

 つまり、同じファストフード業界でも、すでに激しい顧客の奪い合いが繰り広げられているということになります。

 加えて、この宅配市場を虎視眈々と狙うのはハンバーガー業界だけでなく、コンビニエンスストア業界などもかなりの力を入れています。

 最大手のセブン-イレブンは75%の店舗に当たる1万2000店で、宅配専用の日替わり弁当や生鮮野菜などの宅配サービス「セブンミール」を展開しており、12年度の売り上げは、およそ200億円を計上しています。さらに15年度には5倍の1000億円にまで拡大させる計画です。

 この顧客の“玄関口を押さえる”宅配市場は数少ない安定的な成長が見込める市場だけに、ほかにもファミリーレストランや宅配ピザ、宅配寿司など数多くの企業が入り乱れ、激戦を繰り広げている市場といっても過言ではないでしょう。

 このような状況の中で、いかに“ハンバーガー業界の雄”であるマクドナルドといえども、強力なライバルを打ち負かしてシェアを順調に拡大していくことは難しいといわざるを得ないでしょう。

「顧客はどこに障害を感じているのか?」を見極める

 続いては顧客面(Customer)からの分析を行っていきましょう。

 マクドナルドの新CEOであるカサノバ氏は、宅配のメインターゲットとして高齢者や子育てに忙しい主婦を想定しています。

 確かにシンクタンクの調査では、高齢者増加や女性の社会進出により家で調理する時間のなくなった家庭の宅配ニーズの高まり、市場が成長していると分析しています。加えて、特に高齢者などはマクドナルドの店舗に足を運びにくい現実を考えれば、宅配サービスを提供することによって、注文が増えるという結果も考えられるでしょう。

 ただ、それを見極めるためには、高齢者がマクドナルドを食べたくてもなんらかの障害があって食べられない、という確証を得なければなりません。そして、その障害を取り除く手段が宅配であれば、売り上げが大きく伸びる可能性があるということなのです。

 例えば、フレッシュネスバーガーは女性に大きめのハンバーガーを食べてもらおうというキャンペーンを企画します。同社はキャンペーンに当たり、女性が現状の大きなハンバーガーを食べない原因を分析したところ、「大口を開けて食べる姿が恥ずかしいという障害があるからではないのか?」という仮説に至ります。そこで、女性の閉じた“おちょぼ口”が描かれた包装紙を製作し、女性としては“はしたない”と思われている「ハンバーガーを“がっついている”姿」が見えないように工夫しました。

 すると、なんと女性の大きなハンバーガーの購入が前月比213%もアップしたのです。

 マクドナルドもこれと同じように、もしターゲットを高齢者に定めるのなら、ハンバーガーを購入するのにどのような障害があるのかを見極めて、解消してあげる必要があるというわけです。

 また、高齢者をメインターゲットにするならば、1500円という最低注文価格は、量の面からいってもそれ自体がハードルになるでしょうから、大幅に引き下げなければならないでしょう。

宅配市場でマクドナルドの強みは生きるのか?

 最後に自社(Company)を分析していくことにしましょう。

 ハンバーガー業界において、マクドナルドは圧倒的なシェアを誇るだけに、ブランド力は強力な強みになりそうです。雨の日など顧客が外に出たくない時に、「ハンバーガーのデリバリーを頼むのならマクドナルド」ということになる可能性も高いといえるでしょう。

 また、ハンバーガーチェーンでは最大の店舗網を誇るという点も有利に働くでしょう。

 ただ、“戦場”がハンバーガー業界ではなく、宅配市場になった時に、その強みがそのまま生きるかどうかには疑問が残ります。宅配市場では前述の通りコンビニ業界やファミリーレストラン業界、ピザや寿司などの専業企業が入り乱れて、激しい競争を繰り広げています。

 店舗面ではセブン-イレブンは全国1万店以上の店舗で宅配を実施してマクドナルドを圧倒的に凌駕していますし、料理面ではピザや寿司など美味しいものもたくさんあります。つまり、このような異業種との競争において、マクドナルドは必ずしも絶対的な優位な立場にあるとはいえないのです。

 確かに宅配市場は拡大基調にあり、外食企業が減りゆく需要を補うために宅配事業を始めることは有効な手段の一つになり得ます。一方で、数少ない成長市場のパイを奪い合う競争は日に日に激しくなり、いかにマクドナルドといえども市場を切り開くことは至難の業といえるのではないでしょうか。

 果たして、新CEOの肝いりで拡大する宅配事業により、マクドナルドが不振を脱出できるのか?

 その手腕に注目しましょう。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)

安部徹也

安部徹也

株式会社 MBA Solution代表取締役CEO。1990年、九州大学経済学部経営学科卒業後、現・三井住友銀行赤坂支店入行。97年、銀行を退職しアメリカへ留学。インターナショナルビジネスで全米No.1スクールであるThunderbirdにてMBAを取得。MBAとして成績優秀者のみが加入を許可される組織、ベータ・ガンマ・シグマ会員。2001年、ビジネススクール卒業後、米国人パートナーと経営コンサルティング事業を開始。MBA Solutionを設立し代表に就任。現在、本業にとどまらず、各種マスメディアへの出演、ビジネス書の執筆、講演など多方面で活躍中。主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』には、2万5000人以上のビジネスパーソンが参加し、無料のメールマガジンを通してMBA理論を学んでいる。

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