富士フイルム、卓越した経営 古びた「当たり前」を愚直に実行、主力事業消滅の危機を克服
本連載では、企業が「顧客が買う理由」を考え抜いて「顧客で検証する」ことを提唱している。そのためにはまず、(1)自社の強みを考え抜き、(2)その強みを必要とする顧客が誰かを考え、(3)その顧客はどのような課題を抱えているかを考え、(4)どのようにすればその顧客が自社を選ぶかを考えることが必要だ。
しかし一方で筆者は、数多くの企業経営者やマネジメント、あるいは現場の第一線で活躍するビジネスパーソンと話していて、気がついたことがある。「まず自社の強みを考えましょう」と提唱すると、自社の強みとして「製品」を挙げるケースが少なくないのだ。
製品は企業の強みではない。製品とは、自社の強みを活かしてターゲット顧客の課題を解決するために生み出された「解決策」、言い換えれば「結果」であり、強みではないのである。
富士フイルムとコダックの差
自社の強みを考えるために、ある企業の例を紹介したい。富士フイルムだ。
デジタルカメラ登場前、カメラでは写真フィルムが使われていた。この写真フィルム業界で長年、世界で圧倒的な巨人として君臨していたのが米国コダックだ。富士フイルムはコダックに挑戦し続け、2000年頃、ついに写真フィルム市場で世界の頂点に立った。
しかし皮肉なことにこのタイミングで、急速に普及し始めたデジタル写真により、この写真フィルム市場の9割以上が消滅することがわかったのだ。当時の富士フイルムは、写真フィルムで売り上げのなんと6割、利益の3分の2を稼いでいた。会社の屋台骨であるこの市場が、わずか数年のうちに音を立てて崩れ始めたのだ。
もしあなたが当時の富士フイルムのトップだったら、「富士フイルムの強みを生かして、新事業を立ち上げよう」と考えるのではないだろうか。
しかし、富士フイルムの強みはなんだろう。
ここでもし「富士フイルムの強みは、写真フィルム技術だ」と考えていたら、富士フイルムの未来はなかった。事実、巨人コダックは、「コダックの強みは、写真フィルム」という考えから抜け出すことができず、12年に倒産した。