本連載では、「お客様自身も気がつかない課題」を把握して、自社ならではの「お客様が買う理由」をつくり上げることを提唱しているが、講演や研修を行うと「では、そのために、社内にどのような仕組みをつくればいいのか?」という質問を受けることが多い。
これは、重要な質問である。「スーパーマンでもない限り、『お客様自身も気がつかない課題』を把握して『お客様が買う理由』をつくり上げるなんてできない」と思いがちだからだ。実際には、お客様自身も気がつかない課題や、その解決策のヒントは、いわゆる普通の社員が持っている。ただし、各社員の頭の中にバラバラな状態になっているのだ。
例えば、営業マンの場合、お客様との日々の会話から、さまざまな課題のヒントを得ている。しかし、一営業マンにとって、それらをフォローするのは大きな負担だ。
これが経営者であれば、組織を動かして率先的に対応できるので、すぐに全社的なプロジェクトを開始することも難しくない。しかし、1人の営業マンが会社組織を動かすのは、どんなにやる気があっても至難の業なのだ。
また、「営業の仕事は、売ることだ」と考える会社も多い。その結果、客先で新商品のヒントがあっても、それは後回しにして、販売活動を優先せざるを得ないケースも多い。
一方、開発部門の技術者は、会社の強みの源泉になる「中核技術」を持っている。それを生かして、顧客に応じたさまざまな解決策をつくることもできる。しかし、必ずしも顧客の現実的な課題を把握していないケースも多い。「こんなことで困っているはずだ」と想定しながら、実際には十分な検証をせずに、製品開発に突っ走ってしまうことも珍しくない。
このように、ある程度の大きさの会社では、「お客様が買う理由」をつくるヒントは社内の至る所にある。しかし、バラバラになっているのが現実だ。そこで必要なのは、営業マンが現場で見つけてきたヒントを、技術者と共有して解決策に結びつけ、会社としてフォローする仕組みをつくることである。
例えば、定期的に営業部門と開発部門が集まり、営業が現場で拾ってきたお客様の声を開発部門の技術者と共有する。そして、解決策を一緒に考える場をつくるというのも、ひとつの方法だ。
興味深いコミーの取り組み
これを仕組み化している会社もある。本連載でも紹介した、業務用ミラーメーカーのコミーだ。従業員約20名の同社は、ユーザーの課題を深く理解するために、年に1回、全従業員でユーザー訪問を実施している。