労働基準法等の一部を改正する法律案、いわゆる「残業代ゼロ法案」である。この改正案は安倍政権が成長戦略の目玉に位置付け、4月3日に閣議決定され今国会の成立を目指していた。
改正案は、金融ディーラーなど専門的な仕事に就く、年収1075万円以上の労働者を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」、通称ホワイトカラー・エグゼンプションの導入が柱となっている。しかし野党は、今後年収要件が緩和されると対象が拡大し、残業代ゼロの長時間労働を助長するとして反発している。
今国会では成立しなかったが、アベノミクスの目玉であり経済界からの期待も大きく、次期国会での成立はほぼ間違い情勢だ。
残業代がゼロになる、ということだけに焦点が当てられがちであるが、そもそも論として、「日本人の働き方と幸福とは」という視点での議論がないがしろにされていると筆者は常々考えている。
今回は、新しい働き方の提言を行った『実践ワーク・ライフ・ハピネス2』(阿部重利、榎本恵一共著、藤原直哉監修/万来舎)の著者のお二人に、本来議論すべき観点について取材を行った。
–残業代ゼロ法案が今国会では不成立でしたが、そもそもなぜこのような法案を政府は通そうとしているのでしょうか。
–思考の枠とはなんですか?
阿部 労働者と会社は対立するものだという古い考え方です。労働者は会社に対して「安い給料で長く働かせたいのだろう」と考え、会社は「残業代が欲しいから残業しているのだろう」と考えているという固定観念があります。
成果の上がらない労働に対しては残業代をゼロにしようというのが会社側の論理であり、労使の対立概念から出てくる発想です。そもそもそこがズレてるのですが、政府も経済効率が上がることを期待して推進しているように思います。
そういうライフスタイルを日本人が本当に望むのだろうか、それで幸せなのだろうかという根本的な疑問もあります。