榎本 楠田氏から、「人材は人財ではない」と教わりました。人が宝ではないという意味ではなく、「材」という文字が現しているように、木のように大事に育てていかなくてはならない、という意味なのです。木は栄養と日光を与え、大事に育てなければ大きくなりません。それと同じように、人も大事に育てていかなくてはならないという視点を経営者は持つべきです。
先ほど阿部氏からご紹介があったようなブラック企業は、社員を道具のように扱い、会社の売り上げだけを追求しているところです。人材を育てるという観点がありません。ハピネス企業は「顧客第一主義」と唱えながらも、裏ではしっかりと社員第一主義を掲げ、それを理念として具現化しています。会社から大事にされているという意識を持った社員は、必ず顧客も大事にするものなのです。
阿部 顧客満足(customer satisfaction:CS)が大切と言いながら、真のCSを実現している企業は少ないのです。なぜなら、CS以前に顧客不満足要因をつくらない最大の経営資源は、「人・社員」であると認識し、その人・社員を大事にするという観点が抜けているからです。そういう会社の社長に対して、私はよくこんなことを言います。「CSという前に、まずは社員を真の意味で大切にしてください」と。
–「はたらく」という言葉は、そもそも「傍(はた)が楽になる」から来ているといわれます。日本には古来、周りがハピネスになってこそ働きがいがあるという文化があったように思います。そういう意味でも、お二方が提唱されている「ワーク・ライフ・ハピネス」という考え方は、本質的な仕事のあり方を問うているわけですね。
阿部 その通りです。拙著では、それをすでに実現したハピネス企業が多く登場します。理想論ではなく、実現可能なことなのだと知っていただきたいですね。
榎本 日本がグローバル化しつつあり、仕事のあり方に大きな変化が起こっている現代だからこそ、「ワーク・ライフ・ハピネス」という概念を浸透させていきたいと考えています。
–今日はどうもありがとうございました。
(構成=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー)
●阿部重利(あべ しげとし)
ヒューマネコンサルティング株式会社代表取締役。NPO法人わぁくらいふさぽーたー代表理事。経営革新等支援機関認定事務所(経済産業省)。経営コンサルタント。ビジネスコーチ。CFP(R)。キャリアコンサルタント。ワークライフバランスコンサルタント。現在、企業コンサルティングの他、全国で年間約150本の講演・研修等をこなし好評を受け続ける。
●榎本恵一(えのもと けいいち)
税理士法人恒輝代表社員。税理士。経営革新等支援機関認定事務所(経済産業省)。株式会社ウイズダムスクール代表取締役。一般社団法人日本経営コーチ協会理事長。現在、税務・財務・経営・人事コンサルタント、経営者、企業家のための叡智の学校Eラーニングシステムによる Wisdom School校長として活躍中。