人間にとって睡眠が大事なことのように、動物にとっても眠りは大事なこと。人にもっとも近縁なチンパンジーは、木の上に毎日ベッドを作って眠る。そのベッドは堅固であり、同時にやわらかくもある。人が寝ても気持ちのいいベッドだというのだ。
『チンパンジーは365日ベッドを作る』(座馬耕一郎著、ポプラ社刊)では、京都大学アフリカ地域研究資料センター機関研究員の座馬耕一郎氏が、構造、寝姿、群れの中での位置関係など、野生チンパンジーへのアプローチを通し、眠りの本質、進化の道筋を解き明かす。
■チンパンジーのベッドの作り方とは?
座馬氏が、野生チンパンジーの睡眠について研究するきっかけとなったのが、チンパンジーのベッドで昼寝したときの心地よい体験だという。では、どのようにそんな寝心地のいいベッドを作っているのか。次のように説明する。
まず、木に登り、少し太めの枝の上に自分の立ち位置を決める。そして、葉のついた枝を手で持ち、足の下へバサッと折り曲げ、その枝を足で踏む。この作業を繰り返していくたびに、足の下の枝が積み重なっていくという。そして、「曲げる」「折る」「切って置く」の3種類の加工技術で、複雑に織り込まれたベッドに形作られていくのだ。
ある程度、組み上げるとチンパンジーはそのベッドに横たわる。ところが、寝るのかと思いきや、おもむろに起き上がり、近くの小枝を1本切り取り、またベッドに横たわる。そして、寝たり、起きたりを繰り返し、小枝を積み重ね、実際に寝てみて寝心地を確かめる。小枝で微修正を加えることで、よりよい心地のよいベッドを作り上げていると考えられているというのだ。
■チンパンジーは毎日ベッドを作る
チンパンジーは集団で数十平方キロメートルの遊動域の中で、果物や葉などを食べ歩き、行った先でベッドを作る。だから、毎日ベッドを作らなければいけない。単純作業で作られたベッド、かなり頑丈だ。跡形もなくなくなるまでにおよそ3、4カ月。なぜ、頑丈なのか。それはベッドの構造に秘密があると座馬氏はいう。
曲げたり折ったりした枝を使う「下層」と、切って置いた枝が多い「上層」の二層構造によって、「頑丈さ」と「寝心地のよさ」が作られる。実はこのベッドの構造は、人間のベッドと同じなのだそうだ。市販のベッドの多くは、土台の枠組みとその上に置くマットでできあがっている。チンパンジーも人も、寝心地の良さを追求すると、必然的にこの構造に辿り着くのかもしれない。
ネコが暖かい陽だまりで寝たり、チンパンジーが木の上にベッドを作って眠るように、動物も「気持ちよく眠る」ことに、こだわりがあるようだとわかる。枕やベッド、快眠グッズなどにこだわりを持つ人間とも似ているところがあるのだろう。
「眠り」という視点から動物を観察する『チンパンジーは365日ベッドを作る』を読んでみると、新たな発見があるはずだ。
(新刊JP編集部)
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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。