若い人にはピンとこないかもしれないが、一昔前まで「モテ車」という言葉があった。乗っているだけで男性としての魅力があがる、言葉通りモテる車のことだ。
1980年代後半のバブル期ならばフェラーリやポルシェなどのスポーツカーやオープンカー、国産車でも2シーターの名車が多く世に出されたのはその理由から。これらのモテ車に乗った男性がデートに迎えに来てくれることが、当時のある種の女性にとってはステータスだったのだ。
あれから約25年。
車と恋愛を取り巻く私たちの状況は大きく変わった。車は、モテのアイコンを示すものではなく、あくまで生活に根ざしたハコであり、乗り心地が何よりも優先される輸送機械という認識が広まったのだ。
■SUVはなぜモテる?
そんな今の時代に強い人気を誇る車が、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)というカテゴリだ。
三菱のパジェロ、トヨタのハリアー、ランドクルーザーと言われればなんとなくデザインのイメージが思い浮かぶだろう。
SUVは、車高が高いため運転中の見晴らしがよく、アウトドアでの走破性にも定評がある。さらに、荷物がよく入り、乗り心地もよいため女性たちから「乗りやすい」と人気があるのだ。
ある意味、SUVは現代の「モテ車」と言えるが、その理由はバブル期にスポーツカーがモテた背景とは大きく異なることは言うまでもない。
では、SUVはなぜモテるのだろうか。
やはり乗り心地がよいから? どこでも走れるから?
それも正解のひとつかもしれない。
だが、人気車の歴史を紐解くと、もう一つ新たな「正解」が浮かび上がってくる。
■何を買っているかで人が評価される時代
アメリカの人気商品ヒットの背景を分析した『クール 脳はなぜ「かっこいい」を買ってしまうのか』(スティーヴン・クウォーツ、アネット・アスプ著、日本経済新聞出版社刊)は、SUV人気の背景について、上記の説とはまったく異なる分析を加えた本だ。
本書によれば、SUV人気の背景にあるのは「社会的シグナル」なのだという。
社会的シグナルとは、人がある商品を買ったり、それを愛用していることを示すことで、周囲がその人に感じる印象、あるいはその人が周囲から受け取って欲しい印象が決定される要素のことだ。
たとえば、フェアトレードのコーヒーを愛好する人は、大量消費社会に対して一定の距離を持ち、サスティナビリティのある生活を標榜している「エコな人」だと周囲から思ってもらえるだろう。
これと同様に、SUVもあるシグナルを発しており、そのシグナルを発したい人が増えたから人気が爆発した、というのが著者の仮説だ。
■ミニバンはダサい。だからSUVに乗る
SUVというカテゴリが生まれた1991年当時のアメリカは、ミニバンの全盛期だった。この時、ミニバンは自動車市場の10%近くを占めており、特に郊外のアッパーミドルの家庭は、好んでミニバンに乗っていたという。