“麻雀狂”黒川前検事長、退職金5900万円を一瞬でギャンブルで“すってしまう”可能性
賭けマージャン問題で辞職した黒川弘務前東京高検検事長が、訓告処分に付された行為によって自己都合退職となり、定年退職した場合よりも約800万円減額されるとはいえ、約5900万円もの退職金を受け取ることに批判の声が上がっている。
もっとも、この退職金を黒川氏がギャンブルですってしまう懸念を私は抱かずにはいられない。当連載で先週指摘したように黒川氏はギャンブル依存症の可能性が高いからである。
先週は、可能性と述べるにとどめたが、5月28日発売の「週刊文春」(文藝春秋)と「週刊新潮」(新潮社)の記事を読んで、確信に近くなった。まず、「文春」では、黒川氏がよく訪れていた雀荘の元店員の「黒川さんは、週に1~2回、多い時には週3回もいらっしゃいました」という証言が紹介され、「10年以上前から『賭博常習犯』」と報じられている。また、「新潮」にも、「黒川さんは、学生時代から麻雀狂でしたよ」「(雀荘に)文字通り、万難を排してやってくるんです」という雀友の証言が掲載されている。
まさにギャンブル依存症であり、こういう人はやめたくてもやめられない。マージャンにとろけるほどの快感を覚えるため、誘惑に抗しきれず、二度としないという決意をしても、決して守れないのだ。
そのうえ、これまでは検事総長の椅子を目指してエリート街道まっしぐらだったが、辞職に追い込まれたことによって、その望みが絶たれてしまった。それによって生じた心の空洞を埋められず、今後歩んでいくべき人生の道しるべを見出せない可能性も十分考えられる。
こういう時こそ危ない。ギャンブル依存症の患者の話を聞くと、ある目標を達成してその後の目標を見失った空虚感、あるいは逆に目標をあきらめなければならなくなった喪失感にさいなまれている時期に、ギャンブルにはまりやすいことがわかる。
黒川氏の場合、辞職によって自由な時間が大幅に増えることもあり、喪失感にも空虚感にもさいなまれそうだ。しかも、もともと好きだったのだから、雀荘通いを簡単にやめられるとは思えない。おまけに、顔と名前が知られているうえ、多額の退職金を手にしたことが日本中に報道されたので、いいカモだと思って近づいてくる輩もいるのではないか。
もしかしたら、海外のカジノにまで“遠征”するかもしれない。もともとカジノでのギャンブルが好きだったらしいので、これまで以上にはまる可能性もある。カジノでは、5900万円くらい、あっという間にすってしまうだろう。
黒川氏と同じく東大法学部出身で、大王製紙取締役社長さらには会長を務めていた井川意高氏は、106億8000万円もの大金をカジノに突っ込んだという。それに比べれば、黒川氏の退職金など微々たるものだ。「今度こそ勝つ」と自分に言い聞かせ、借金してまで賭けて負ける。さらに借りて、また大きく負ける。そういうことを繰り返すのではないかと危惧せずにはいられない。
もっとも、こういう賭博熱に取りつかれながら、素晴らしい作品に結実させた作家もいる。その典型が、ロシアの文豪ドストエフスキーだろう。ドストエフスキーは、40代の約10年間賭博熱に取りつかれていて、「有り金全部すってしまった」ということを繰り返した。やっと賭博から足を洗おうと決心できたのは、賭博場で何度か続けて大負けした49 歳の時だ。それから死ぬまでの10年間、彼は二度と賭博に手を出さなかった。
ギャンブル依存症から脱却するには、それだけ痛い思いをしなければならないということだ。ドストエフスキーのこの経験は、『賭博者』という作品となって結実した。黒川氏が万一退職金をギャンブルで失うような事態になっても、その経験を書いて出版すれば、少しはもとが取れるかもしれない。井川氏との対談も巻末に掲載してくださると、個人的にはとてもうれしい。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
井川意高『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』幻冬舎文庫2017年
ジークムント・フロイト『ドストエフスキーと父親殺し/不気味なもの』中山元訳 光文社古典新訳文庫 2011年