横尾忠則氏の『悩みも迷いも若者の特技だと思えば気にすることないですよ。皆そうして大人になっていくわけだから。ぼくなんかも悩みと迷いの天才だったですよ。悩みも迷いもないところには進歩もないと思って好きな仕事なら何でもいい。見つけてやって下さい。』(勉誠出版/刊)は、114文字もあり、長いタイトルの書籍として有名だ。
こうした、書籍タイトルの長文化はいつから始まったのだろうか?
たとえば、2009年の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海著、ダイヤモンド社刊)や、2013年の『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴著、KADOKAWA刊)などは記憶に新しい。
ちなみに『もしドラ』は、2015年に第二弾として『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』という、より長いタイトルの書籍も発刊されている。
タイトルが長文化した理由は、いろいろと考えられるが、ひとつには書籍の出版点数の増加が要因にあると考えられる。
出版される書籍の数が増えれば、当然、書店を訪れる客は書籍の多さに戸惑い、どれを選ぶか迷う。
そんな中、ひときわ長いタイトルの書籍は存在感があり、客の目にも留まりやすい。少なくとも「どんな本なのだろうか?」と興味をそそられ、その場でページをめくってみたくなるだろう。
数多ある本の中から、まずは手に取ってもらうための戦略として、「長文タイトル」が生まれたわけだ。
しかし、その戦略がインフレ気味であることは否めないだろう。皆一様に、他の書籍よりも目立たせようと長文のタイトルをつけてしまえば、結果的には他との差別化にはならなくなる。
その反動なのか、昨今は「シンプルで短いタイトル」の書籍が目立つ。『伝え方が9割』『嫌われる勇気』『生産性』『やり抜く力 GRIT』などのヒット作は、一言や一文で伝わるタイトルを前面に押し出し、副題は小さい文字で添えるようにデザインされている。
一度、こういった「タイトルの長短」に注目して、書店の本棚を見て回ってはいかがだろうか。
時代は繰り返すと言うが、またどこかでタイトルの潮目が変わるときがくるだろう。そのときに「シンプルなタイトルから、また長文タイトルの波が来たな」と、世の中の流れを楽しめるかもしれない。
(ライター:大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。