「近代マーケティングの父」と呼ばれているフィリップ・コトラーは、「マーケティングとは顧客のニーズに応えて利益を上げること」だと語っています。
顧客のニーズに応えることがマーケティングの重要なポイントの一つですが、良い商品だから売れるとは限りません。70年代後半から80年代にかけて、ビデオテープの市場においてVHSとベータマックスが規格争いを繰り広げました。当初、質の高いベータマックスが有利といわれていましたが、最終的には録画時間が長く販売店が多かったVHSがベータマックスを吸収しました。質が良ければ売れるというわけではない好例です。
企業は、商品を市場に流通させる際に「売れる仕組み」の構築を図りますが、売れる仕組みは、顧客の視点に立ったものでなくてはなりません。ところが、多くの企業では顧客の視点に立った「売れる仕組み」づくりが構築できているとはいえません。
「売れる仕組み」とは、大衆に向けたプロモーションや流通システムのことであり、プロモーションの主軸は広告です。マーケティングの視点で広告を作成することは、ベテランのマーケッターや広告会社の社員でも簡単ではありません。
広告のプロが使っている伝え方を、法則として誰でも使えるようにまとめた『人を動かす言葉の仕組み』(KADOKAWA 角川学芸出版)の著者である木村博史氏は「広告は感情に訴えるトッピングをすると効果的である」と、述べています。広告の伝え方を取り入れることによって、売り上げが伸びなかった商品の多くは販売促進につなげることが可能になるといいます。しかもこの法則は商品販売以外に、会社の会議などの多様なシチュエーションで転用できることに特長があります。
●伝える仕組みは昔から同じ
「例えば、焼鳥屋さんは焼鳥を焼いている匂いを煙と一緒にお店の外に出していますよね。あれは人の視覚と嗅覚に訴える広告。モクモクした白い煙と香ばしい匂いを嗅ぐことで焼鳥が食べたくなります。
これは、インターネットやテレビコマーシャルがない古い時代から使われてきた手法ですが、効果的に伝えるためのヒントが隠されています。
さらに、成果を得るためには、プレゼンテーションの資料であっても営業であっても、伝えることに加えて、相手を納得させるだけの材料をこちらから提供しなければなりません。そのためには、相手の求めている本質を見抜いて情報提供することが大切になります。
加えて、相手に行動を起こさせるために感情に訴えるトッピングが効果を持ちます。納得させ、感情を揺さぶるという組み合わせが、相手に行動を起こさせる仕組みにつながっていきます」(木村氏)
確かに、相手が行動を起こさなければ、成果(受注、売上)にはつながらず、徒労に終わってしまう可能性もあります。
企業においては、売上成績の良い営業担当者を「営業力がある」「営業がうまい」と評価することがあります。ところが、顧客が望まない商品を売りつけても顧客満足にはつながらず、リピーターにはなり得ません。
営業力があること自体は否定しませんが、顧客のニーズを把握しなくてはいけません。そして、相手が何に興味を持っていて、どのような情報を提供すれば納得してくれるのか、どのように訴えかければ行動を起こしてくれるかを考えなくてはいけません。
伝え方の仕組みには、仕事やプライベートを有意義なものにするためのヒントが隠されているかもしれません。
(文=尾藤克之/経営コンサルタント)
●尾藤克之(びとう・かつゆき)
東京都出身。経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。人間の内面にフォーカスしたEQメソッド導入に定評。リスクマネジメント協会「正会員認定資格HCRM」、ツヴァイ「結婚EQ診断」監修等の実績。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『国会議員秘書の禁断の仕事術』(こう書房)など多数。